今回のUAV通信、テーマは「なぜドローンを事故なく飛ばすにはラジコンヘリをやるといいのか?」です。
中村:このビデオは、フリークスガレージのドローンスクールの生徒が、「ラジコンヘリコプター」を練習しているものです。今、上級を目指している方ですね。この「ラジコンヘリ」は、フライバーレスというタイプ。バーレスの可変ピッチのヘリで、470というクラスです。
なぜ私たちのドローンスクールでは「ラジコンヘリコプター」を練習するのかというと、「より安全にドローンを飛ばせるようになる」からです。「ラジコンヘリ」はドローンの中でも、非常に操縦が難しい種類です。高さや姿勢を制御する機能がついていません。ジャイロがあるので、勝手に水平に戻ったりもしないです。不安定です。これを正確に操縦できると、どんなドローンでも安全に飛ばせます。
そう、うちの場合、ドローンの定義が世間と少し違います。一般的には、ドローン=マルチコプターを指していますね。どうしましょう。ここでも、ドローン=マルチコプターで話したほうがいいですかね?
嶋貫:そのほうが分かりやすいですね。フリークスガレージの特徴は、ドローンのことを「UAV(Unmanned Aerial Vehicle)」と正式な名称で呼ぶところです。それで、マルチコプターとラジコンヘリ、ラジコン飛行機を完全に分けて扱っています。ドローンの世界でプロを目指すのであれば、マルチコプター、ラジコンヘリ、ラジコン飛行機と分けたほうがいいのかなと。
中村:皆さんが練習したり飛ばしたりしているものの多くはマルチコプターです。マルチコプターを使って仕事をしています。マルチコプターを飛ばすのに、なぜラジコンヘリを練習するのか。それは、操縦が非常に難しいものだからです。ラジコンヘリを安定して飛ばすのは、簡単ではありません。正確に操縦するには、機体の動きを把握していないとできないのです。そうしないと、安全に飛ばせません。
うちでいう「安全に飛ばす」というのは、「不測の事態があったときに対処できる」ことを言います。普段、マルチコプターを飛ばす中で事故や墜落なく飛ばすのは当たり前のことです。そうではなく、仕事現場で急に突風が拭いてきたとか山陰で急にGPSがきかなくなったとか、そういったときにも冷静に飛ばせるかどうかのほうが重要です。
事故や墜落の予期せぬ原因は、どこでも必ず起こります。そういうときに、ラジコンヘリで身につけたテクニックが活きます。もちろん、そのテクニックが、必ずしも毎回の飛行で必要というわけではありません。しかし、週に1回しか飛ばさないドローンパイロットと毎日3フライト、5フライトと飛ばすドローンパイロットでは、危ない状況に遭遇する確率が全然違います。だから、頻繁に飛ばす人であれば、ラジコンヘリの練習が必要です。本当にドローンで仕事をするプロを目指す人に、私たちはお話しています。そういうレベルで話をしています。プロを目指さない方やなんちゃってプロの方なら、無理にラジコンヘリを練習しなくてもいいです。
嶋貫:マルチコプターしか知らない方に対して、どうラジコンヘリコプターとの違いを説明すればいいですかね?
中村:まず、マルチコプターしか飛ばしたことがない方、とくに最近の性能のよい機体しか飛ばしたことがない方は、「スティック操作を何もしない状態」が一番安定しているという認識です。スティックから指を離していると安定すると考えている。だから、すぐにスティックから指を離してしまいます。こういう方は、ドローンで仕事をしたことがない方です。フリークスガレージのドローンスクールには、他のスクールを卒業された方も大勢、学び直しに来ています。この間来られた方も、スティックの握り方からひどいものでした。この握り方では、絶対にラジコンヘリは飛ばせないというものでした。
「スティックから指を離せば安定する」と考えているパイロットさんは、いざ何か起こったら対処できないので、事故や墜落をしてしまいます。なぜマルチコプターが空中で安定してホバリングしているかというと、4枚のローターがコンピューターで制御されているからです。しかし、ラジコンヘリコプターの場合、一軸のローターで、少しのスティック操作に対してかなり反応します。難しいものを練習するからこそ、マルチコプターを飛ばしたときにも、事故や墜落の予防ができます。
あと、ラジコンヘリを練習するもう一つの理由は、産業用の大型ドローンの機体を飛ばすときに、その技術が必要だからです。大型機を飛ばすときは、ヘリの操縦テクニックを使わないときちんと操縦ができません。一般的にドローンというと「DJI」の「Mavic」シリーズのような100~200gの機体を思い浮かべるかもしれません。しかし、うちで扱う大型機は、15kgは当たり前です。そういう機体を飛ばすには、ラジコンヘリの基本的な操縦テクニックが必要になります。
嶋貫:ラジコンヘリを練習するときの注意点は何がありますか?
中村:ローターがものすごく長くて、高回転で回っているので、取り扱いは慎重が求められます。触っただけで大怪我しちゃいますから。何かにぶつけたら、ものも機体も壊れます。
だからこそ、より慎重に操縦する癖がつきます。最近のドローンパイロットさんの操縦を見ていると、ものすごく雑なんですよ。ピピピとスイッチを入れて、バーッと飛ばして、どこかにぶつかりそうになると「あー、あぶないあぶない」くらいで。緊張感がないんですよね。ラジコンヘリは、きちんと手順を踏んで飛ばさないと、安全な飛行はできません。だからこそ、その注意する意識が、プロとして仕事をするときにも活きてきます。
嶋貫:ラジコンヘリで、具体的にどのような練習をしますか?
中村:まずはホバリングですね。ホバリングさせるだけでも、ものすごい技量が必要です。ピタッと空中で止める練習をします。それから、旋回を練習します。旋回の技術は、大型のマルチコプターを飛ばすときにすごく役立ちます。今ビデオでホバリング練習をしている生徒さんも、言っていました。この後、大型機を飛ばしたのですが、「大型機を飛ばしてみて、ようやくラジコンヘリで練習する意味が分かりました!」と、しみじみ言っていまいた。ヘリを練習する重要性を、フリークスガレージでは重く見ています。
嶋貫:ドローンというと、どうしてもマルチコプターだけを指すような認識がありますしかし、。私たちからすると、ドローンの仕事では、当たり前のようにラジコンヘリも使います。それで、マルチコプターだけじゃなく、ラジコンヘリを仕事で使うメリットというと、どう説明すればいいでしょうか?
中村:今のマルチコプターの課題は、長時間飛ばせないことです。しかし、ラジコンヘリの場合、エンジン機があるので、長時間飛ばせます。シングルローターで動力が1個でいいので、長く飛ばせます。逆に、マルチコプターをエンジンで飛ばすのは100%無理です。4箇所にエンジンをつけて、それらを細かく制御しなくちゃいけません。もちろん、ハイブリッド的な考え方ならできます。実際、すでにハイブリッド機はあります。最近も、離陸や着陸はマルチコプター、上空で飛行は飛行機という機体が発表されていました。これを飛ばすにも、両方の高度な操縦技術が要ります。
構造がシンプルで長時間飛ばすには、ラジコンヘリが優れています。農薬散布の世界では、まだまだヘリが活躍しています。だから、ラジコンヘリを飛ばせるパイロットは、けっこう求人依頼があります。
そういうことで、フリークスガレージのドローンスクールでは、ラジコンヘリもカリキュラムに取り入れています。ドローンの一種である以上、飛ばせないといけません。また、一番操縦が難しい種類なので、それをやれば、マルチコプターもより安全・正確に飛ばせます。逆にいえば、「マルチコプターだけを飛ばしている人は、なんでラジコンヘリを練習しないの?」と思います。「マルチコプター・パイロット」ならそれでいいです。しかし、「ドロ―ン・パイロット」であれば、ヘリや飛行機は必須です。
フリークスガレージでは、ラジコンヘリの練習を重要視しています。ドローンの一種として、きちんと取り入れています。もし興味があれば、ぜひラジコンヘリにも挑戦してみてください。