“イットクさんのドローンスクールの特徴は、マルチコプターだけじゃないところです。ヘリとか飛行機の要素が入っている。上級まで行くと、ヘリでもホバリングまではできますし、小さい飛行機でしたらなんとなく飛ばせるようになる。それらを浮かせて降ろすテクニックは身につきます。そのへんは、他のドローンスクールと比べたら差になるのかな。”
――ドローン・インストラクター 嶋貫 秀人
どうやってドローンを教えるインストラクターになったか? 00:52
中村一徳(以下、イットク):今日はですね、うちのドローンスクールを卒業して、今はインストラクターをやってもらっている嶋貫さんを紹介します。
嶋貫さんは、3年くらい前にUAV(ドローン)のパイロットになってみたいということで、うちの門を叩きました。もともと、ラジコンはあまりやったことがありませんでした。今は、うちでインストラクターとして生徒を教えています。
嶋貫さんは、もともとUAV(ドローン)に関わる仕事をやってみたいという考えがあったんですよね。
嶋貫秀人(以下、嶋貫):できるならやってみたいなと思っていました。
イットク:実際、ドローンの仕事はいっぱいあります。だけど、なかなかすぐに、簡単にはできないのが現状です。
嶋貫:私も、初めは空もの(ラジコンの飛行機やヘリコプター)を趣味でやってみたい、というのがスタートでした。
イットク:飛ばせるようになったら、仕事にもつなげたいということでしたね。センス的にはすごくいいんですよ。
嶋貫:でも、上級コースを卒業するまで、それなりに時間はかかりましたね。
イットク:嶋貫さんは、うちの上級コースの修了証書を持っています。あと、インストラクターの卒業証書。これを取るにはね、けっこう……
嶋貫:かなり時間がかかります。
イットク:好きなことをやりながらなので、努力ってことはないけどね。
嶋貫:けっこう集中してやりました。
イットク:そう。こっちが心配するくらい。「大丈夫? もう今日は練習やめれば」って勢いで練習していて(笑)。
嶋貫:週一回くらいのペースでしか、練習ができなかったので。
イットク:週一回といっても、朝来たら夕方までずーっと飛ばしていたからね。それだって、飛行時間はトータルすると1時間くらい。
嶋貫:1時間できればいいかなっていうところですね。
イットク:嶋貫さんがやっていたときの機体は、トータルで15分くらいしか飛ばないものでした。離陸から着陸まで入れちゃうと、1回の練習時間は10分くらいだからね。10分で1時間ということは、それを6フライトしなくちゃいけない。1日で1時間だから、10時間やるには、それを10日間やらなくちゃいけない。
嶋貫:10時間には壁がありましたね。
イットク:うちは、10時間飛ばしていないと上級コースを受講できないんですよ。今は、国交省の許可を取るにも10時間以上の飛行が必要です。でも、うちは練習の中で、軽く10時間超えちゃうよね。
嶋貫:そうですね。ただ、10時間飛ばしたからって、技術的にはどうかなと思います。練習内容にもよりますかね。
イットク:いや~、すごい練習していましたからね。
今うちは、協力会社さんから、ドローンの仕事をかなりもらっています。嶋貫さんにも、そういう仕事をこなしてもらいたいんですけど。逆に、そうした仕事をこなせるパイロットを育ててもらわなくちゃいけないので。
嶋貫:まずは、そっちかもしれないですね。
イットク:これからドローンの仕事を目指す方たちは、とにかく練習してもらう必要があります。一番気を遣うのは安全飛行だもんね。
嶋貫:そうですね。そこがどんな状況でも大切になります。
イットク:飛ばさなくちゃいけない。しかも、落としちゃいけない。ちゃんと仕事を完了させなくちゃいけない。そんな感じだからね、ドローンの仕事って。
ところで、嶋貫さんは、上級を卒業するのに1年半くらいかかったかな。
嶋貫:それくらいかかりました。
イットク:ただ、けして遅くはないです。むしろ早いです。だいたい、上級コースを卒業するまで、最短で1年半くらいかかるんですよ。週に3回、4回と練習に来られれば、もっと短くなるかもしれないけど。
嶋貫:あとは、もともと空ものをやってなかったので。やっている人からすれば、そこまでかからないと思います。ラジコンのヘリコプターとか飛行機をやっている人からすれば、全然です。
イットク:嶋貫さんが練習していたときの機体が、1回で15分しか飛ばなかったからね。それが、今みたいに30分くらい飛ぶ機体だったら、もっと練習できたんだろうけど。たとえば「MAVIC」とか「PHANTOM」みたいな機体なら。ただこれらは、ATTIモードっていってね、GPSが切れなかったりするからね。嶋貫さんがインストラクターになったときの環境と今の環境はちょっと違います。これからやる人たちは、もっと早く卒業できるかもしれない。室内で練習できる機体がいっぱい出てきたから。
嶋貫:そうですね。ただ、今の機体は性能がよくて飛ばしやすい分、簡単に飛ばせると思われるのが怖いですね。
イットク:だから、いかに最悪な自体が起きてもマニュアル(手動)で操縦できるかが大事。そういうテクニックを身につけるには、それなりの機体で練習しないとね。あと、練習する条件も大事。嶋貫さんが練習していたのは、風速3メーター以下がないような飛行練習場でした。すごい風の中でやっていたよね。
嶋貫:そうですね。けっこうすごいところでやっていました(笑)。
イットク:それである日、風がないグラウンドで飛ばしてもらったら、ものすごく物足りない顔をしていて(笑)
嶋貫:ですね(笑)
イットク:「風がないってこんなに飛ばしやすいんだ」って。だから、上級を卒業するのに一年半かかるのは、けして長くないですね。本当に、かなり腕はいいので。(撮影者に向かって)そのうちあれでしょ? 嶋貫さんが飛ばしている姿とか、たぶん撮ってもらえるんでしょう。それを見てもらえれば分かりますよね。
なぜドローンのプロパイロットになるのに、1年以上かかるのか? 7:44
嶋貫:苦労したところは、曲線とか円とか八の字の飛行ですね。直線は比較的習得しやすいとは思います。でも、曲線になってくると、動きが立体的になってくるので難しい。そこはかなり苦労しましたね。
イットク:スティックって、4チャンネルを基本に動かします。だけど、それらを1本1本動かすわけじゃない。すべてを同時に動かして、頭の中で描いたラインにいかに機体を乗せていくか。それを指2本で操作しなくちゃいけないから、それが難しいよね。
とくに動画はね。機体がカクンって動いた瞬間、その動画撮影はNGになっちゃうから。いかに滑らかに動かすか。そういうところも、うちの試験は厳しいよね。
嶋貫:厳しかったですね。
イットク:上級の試験、2回くらい落ちているもんね。
嶋貫:いや、もっとじゃないですかね。3回くらいは。
イットク:3回くらい落ちたのかな。でも、飛行させているところをビデオに撮って後で見せると、「あっこれじゃ受からないですね」と自分で納得していましたね。それくらい厳しい試験を、上級ではやっています。
嶋貫:実際に練習していて思ったのは、マルチコプター(一般的にドローンと言われている機体)を飛ばすだけじゃダメだなってことです。やはりラジコンのヘリコプターや飛行機の飛ばし方ができないと、上級は卒業できません。それで、一旦マルチコプターから離れて、ヘリの練習をしたことがありました。
イットク:だから、すごい飛ばしたよね。なんでそこまで頑張れたかというと、同じ機体を使って、私が目の前でそのとおりに飛ばしちゃうわけですよ。そうすると、どう飛ぶかが分かる。だから、見せられた方は飛ばさざるを得ないんです。
嶋貫:そうですね。
イットク:口だけ、「ああしろこうしろ」と言うんじゃダメ。実際に、「こうやって飛ばすんだよ」と目の前で見せるからね。
嶋貫:だから、機体のせいにできない。道具のせいにできない。腕の問題。直に見せられちゃうので。
イットク:嶋貫さんは、こっちが心配するくらい練習していたからね。それで、今に至るんだけど。
嶋貫:それでもたぶん、空ものをずっとやっている人からすれば、そんなの基本だよねって感じだと思います。
イットク:そう。いいインストラクターの見抜き方があって、その人に「ヘリコプターや飛行機を飛ばせますか?」と聞くといいです。それらが飛ばせないのは、インストラクターだったらアウトです。だって、「ドローンパイロット」って言っているんだから。ドローンは無人航空機の総称なので、ラジコンのヘリや飛行機もドローンです。もしもヘリや飛行機が飛ばせないなら、「マルチコプターパイロット」が正しい言い方です。
嶋貫:そうですね。そういう意味では、私もまだマルチコプターのパイロットです。
イットク:うちの修了証書には、車の免許証じゃないけど、「限定」があります。何が飛ばせるかが載っています。「マルチコプター」「ヘリコプター」「固定翼機」と3種類あって、嶋貫さんは、まだマルチコプターにしか丸がないんだよね。ヘリコプターと固定翼機にも丸が増えるといいな。でも、すでにそこそこ飛ばせるんだけどね。
嶋貫:はい。イットクさんのドローンスクールの特徴は、マルチコプターだけじゃないところです。ヘリとか飛行機の要素が入っている。上級まで行くと、ヘリでもホバリングまではできますし、小さい飛行機でしたらなんとなく飛ばせるようになる。それらを浮かせて降ろすテクニックは身につきます。そのへんは、他のドローンスクールと比べたら差になるのかな。ほかのところは、ちょっと私も知らないのですが。
イットク:そう、ほかを知らないんだよね、俺ら。だから、比べようがないんだけど。
嶋貫:ずっと空ものをやってきて、「ヘリや飛行機が飛ばせます」という人からしたら、そういう技術は当たり前かもしれません。
イットク:でも、いくらヘリや飛行機を自由に飛ばせても、仕事となると別です。仕事できっちり飛ばすというのは、それはそれで別の練習が必要だからね。いずれにしても、もし皆さんがうちのドローンスクールで学ぶとしたら、上級を卒業するまで1年以上はかかります。
ドローンの操縦は、独学でもうまくなれるのか? 13:55
嶋貫:正直、私の経験から言うと、独学は絶対に無理です。危険だからです。マルチコプターもですが、特にヘリコプターは、ローター(羽)がものすごい速さで回転しています。実際、過去に起きた事故を見ていると、亡くなっている方もいます。そうした危険がある以上、独学でやるものではないかなと。
イットク:独学はオススメしません。うちの場合は、飛ばす方の腕に合わせて機体を調節しています。たとえば初心者の方には、無理な操縦をしても機体が動き回らないようにします。そうしないと、本当に危ないのでね。目の前でホバリングしていて、それが自分の方に来て、足なんかに当たっちゃったら大変です。骨折ぐらいで済めばいいですが、下手をすれば取れちゃいますからね。
嶋貫:そうですね……。
イットク:ヘリもなかなか難しいんですよ。
――ヘリをやってみたい人は、どうすればいいですか?
イットク:うちのお店に来ていただければ、きちんと調節したヘリで練習できます。練習しやすいヘリじゃないと、そもそも練習ができません。もちろん、最初は必ず落としますけどね。でも、ヘリの調整も指導もさせていただきます。挑戦したい方は来ていただければ。ヘリのホバリングができれば、正直、マルチコプターは目をつむっていても飛ばせます。
嶋貫:確かにそれはありますね!
イットク:ヘリは、一瞬でも目を離したら墜落します。でも、マルチコプターはそうじゃない。大げさに言えば、目をつむって音だけ聞いていても、「ああ、あのへん飛んでるな」と分かります。
あとは、飛行機の飛ばし方も重要です。飛行機のスティックの使い方は、うちだと「モード1」です。「モード1」しか教えられません。「モード1」は、日本のプロパイロットのほとんどが使っています。
それで、うちではスティックを、「エレベーター」と「ラダー」「スロットル」「エルロン」、この4つしか使いません。また、エレベータースティックを前進・後進って教える人が多いんですけど、うちでは「エレベーターダウン」「エレベーターアップ」と教えます。右移動・左移動も、「エルロン右」「エルロン左」です。なぜかというと、エレベーターを前に倒したからといって前進するだけではないからです。いろいろな動きに変わるので、エレベーターはあくまでエレベーターという言い方しかしません。前進・後進と覚えてしまうと、上級以上の飛ばし方は一切できなくなります。
ここは徹底しているよね。教えるときも、「エルロン上げて」「エレベーターアップ」、みたいに言います。前進、後進、右移動、左移動、上下……これでは、最終的に説明できなくなっちゃうので、そういう言葉は、うちでは最初から使わないですね。
嶋貫:確かに使っていなかったですね。
イットク:それくらい、上級はちょっと難しいです。
ドローンで仕事ができるには、普段どんな練習をすればいいのか? 18:28
イットク:仕事で飛ばせるには、とにかく普段から触っていることだよね。剣道では、竹刀をむやみに1000本振るよりも、きれいに100本振るのが上達の秘訣です。ドローンの操縦も、ただむやみに飛ばせばいいわけじゃないんですよ。きれいな飛ばし方をするとか、何か目的を持って飛ばす。そして、いかに毎日練習するかですね。
嶋貫:あとは、基本のスティック操作が大事です。どういう操作をすると、どういう動きをするのか。そうした基本を、まず体で覚えるところからスタートです。たとえば私がやっていたのは、まずシュミレーターで正しいスティック操作を覚える。次に、実機を使って、動く機体をピタッと止める。そういう動きを覚えるところから始めました。
イットク:練習するときの機体は、簡単な飛行ができるものもいいですが、難しい飛行ができるものを使ったほうがいいですね。うちの生徒さんも、初級の方だと、「MAVIC MINI」なんかを使っていることが多い。だけど、できれば気圧センサーが入っていなかったり、6軸・3軸の切り替えができるような機体で練習するといいんですよ。ちょっと専門用語になっちゃたけど。
今どきの機体は、簡単に飛ばせてしまいます。この間、秩父鉄道さんのイベントで、小学生たちに「MAVIC MINI」の操縦を体験してもらいました。ドローンを飛ばすのは、その日が始めての子たちばかりです。そういう子たちでも、一緒に教えながら操縦すれば、駅の転車台の前にいる自分の写真を撮って、機体を着陸させられます。そういうことが、ほとんどの子はなんなくできました。
簡単に飛ばせる機体を飛ばしたからといって、「自分は飛ばせる」と思ってしまうのは、非常に危険です。簡単に飛ばない機体を、いかに普段から安定させて飛ばすことができるか。そういうことを、初心者の方も早いうちからやったほうがいいですね。
嶋貫:私も、初めて自分で購入した機体が、高度維持も付いていないものでした。当然、GPSも。そういった機体でしたので、まずは高さを変えず、位置を一定に保ち、その場でホバリングさせるということをずっとやっていました。それも、ちゃんとやろうとするとすごく難しかったですね。
イットク:難しいです。でも、そういう練習は、家でもできるんだよね、やろうと思えば。
嶋貫:小さい機体だったので、家の中でずっとやっていました。
イットク:目的を持った練習が一番、大事です。ただ浮かせられればいい、ただ飛べばいいのではありません。きちんと制御することを覚えなくちゃいけない。
――家で練習するのに最適な機体はありますか?
イットク:うちの生徒もよく使っている機体があります。
これですね。これは、ドローンレース用の機体で、マイクロドローンというものです。カメラが付いていて、ここから送られてくる映像をゴーグルで見ながら飛ばすものです。うちではそれはやらず、機体を見ながら飛ばしています。レース用なので壊れにくいんですよ。練習していて、落とすたびに壊れたら大変ですからね。こういう機体で練習すると楽しいです。こんなに小さいので、家の中でも楽しめます。
(実際に飛ばす)ホバリングの練習だったら、たとえば空中でずーーっと停めておきます。こうやって飛ばしていると、よく上から何かで吊るしているんじゃないかって言われますけど(笑)。ピタッと停めすぎると、逆に怪しいですよね。じゃあ、コントローラーから手を離します。離しました。(機体が前へ飛んでいく)手を離すと、あーいうふうになっちゃいます。戻します。これをね、ずーーっとホバリングします。練習です。手を離します。(機体が下に落ちていく)おっこっちゃう。どんどん流れちゃいます。
これ、すべてのスティック操作をきちんと理解していないと、空中でピタッと停めることはできません。これが基本だよね。毎日練習するのが一番大事です。
あとは、この機体の正面を、自分と対面させて操縦できるかどうかも大事です。こっちを向けて停めるのもすごく難しいです。全部、打が反対になるからです。
(機体がテーブルに近づいたら急に上昇して)これね、地面効果です。専門用語が出ちゃうんだけど、風がテーブルで跳ね返って、ふわふわ浮いちゃうんですよ。
嶋貫:(嶋貫さんに交代)これ、今日初めて飛ばすんですよ。操縦自体が、コロナの関係で半年ぶりで。イットクさんほど飛ばせないですけど。こういう機体でまず練習するのがいいですね。昔から空ものをやっている人から見たら、この程度かと思われるかもしれませんが。
イットク:でも、全然。いいです。
嶋貫:どのくらいの腕なのかは、上手い人から見たら、ホバリングでバレちゃうと思います。
イットク:すばらしいです。
嶋貫:正直、自分のレベルを自覚させてもらえるっていう意味ではいいですね。
イットク:でもね、ちょっと飛ばしただけで、だんだんカンがもどってきて、動きが落ち着いてきている。
嶋貫:まあこんな感じです。(着陸させる)なかなか着陸も。
イットク:地面効果がね。
嶋貫:こんな着陸のさせかただと、まだまだだって言われちゃいますけどね(笑)
ドローンプロパイロットが起こす事故について 27:47
イットク:あのね、事故はすごい増えています。この間も、保険屋さんが言っていました。「今イットクさんが入っている保険は、もう入れないんですよ」って。うちは大きな保険に入っていて、継続すれば大丈夫ですけど、もう新規では加入できないんだって。事故が多すぎるから。実際、プロパイロットもよく落としています。ある仕事で、クライアント側がパイロットを用意していて、その人がいきなり目の前で墜落させたりね。そんなのはしょっちゅう見ています。それも事故といえば事故ですよね。
嶋貫:ある瞬間、操縦不能になったりというのも、事故といえば事故ですね。
イットク:そうだね。そういうのはしょっちゅうあります。
――嶋貫さんは、飛ばしていてヒヤッとしたことはありますか?
嶋貫:練習中は何回もあります。実際、機体を落としたこともあります。
イットク:今のね、練習中っていうのが大事なワードです。練習中はいいんですよ、いくら落としても。仕事で落とさないための練習です。練習では、この機体はどこまで無茶すると落ちるんだろうって。そういうのを知らないとね。私も練習中はしょっちゅう落とします。この間も墜落させちゃった(笑)。限界まで操縦すると、落とすことがあります。練習中はいいんですよ。本番で落とさないための練習なので。練習中にビビって、大した操縦をしないのはダメだよね。
嶋貫:そうですよね。墜落を経験しないと、その怖さがわからない。
イットク:だから、嶋貫さんも、とにかく全開で飛ばして、ブレーキかけて。どれくらいでブレーキが効いて、どれくらいで完全に停止するのか。そういうことを練習していました。大型の機体を使っていると、いくらGPSが効いていようが、ブレーキが効かないですからね。わざと全速力で飛ばして、急制動とかね。そういう練習を普段からやっておかないと危ない。
嶋貫:その感覚は、小さい機体だと掴めないですよね。
イットク:掴めないかもしれないね。小さい機体は、スティックをニュートラルに戻すと、加速を止めちゃうから。
事故はね、よく遭遇します。もちろん、警察が来たりとかいう事故はないですけど。動画撮影中でも、3回くらい。クライアントが用意したパイロットが、機体を壁にぶつけてバラバラにしたり、墜落させたり。そういう場面はしょっちゅう見ています。
――事故が増えている背景にはどんなことがあるのでしょうか?
イットク:言っちゃっていいのかな。それは、ちゃんとドローンスクールで教えてもらってないからじゃない? きちんとした操縦方法なんかをスクールで教えてもらってないから、事故を起こしちゃう。
嶋貫:あとは、機体が簡単に浮いちゃうからだと思います。今の機体は制御もすごく効いていますし。
イットク:それもあるね。簡単に浮いちゃうからね。
嶋貫:昔のヘリコプターとか飛行機って、うまくならないと浮かせることもできないんですよ。だから、大きな事故になりにくい。今のドローンの機体は、コントローラーから手を離しても、その場でホバリングします。そうなると、もし自分で制御できない状況になったら、どうしたらいいか分からなくなります。その結果、どこかにぶつけたり落としてしまいます。
イットク:あと、どっか行っちゃうとかね(笑)。
嶋貫:そうですね(笑)
イットク:何かあったときに対処できなくて、事故になっちゃう。軽く考えすぎちゃってる、みんな。
――そういう人は法律を知らずに飛ばしているんですか?
イットク:そうです。そういう人はいっぱいいますよ。これね、びっくりしたことがあって、去年の9月に航空法が改正されたんです。最初は、すごい厳しい法律が足されて、もっと飛ばしづらくなるのかなと心配していたんですよ。そうしたら、4項目が増えたんですが、「飲酒しての飛行はしないこと」「他の航空機に当てないこと」「人に迷惑がかかるような飛行はしないこと」みたいな感じで……。「は?」って思いませんか。当たり前のことが足されたんですよね。見たときはびっくりしました。私たちがしている当たり前の飛行を、できない人がいるんだなって。
――そういうことを嶋貫さんは、インストラクターとしてどう感じますか?
嶋貫:今は、家電量販店でも簡単に機体が買えちゃう。それも一つあるのかなと思います。買って、説明書どおりに操作すれば、機体は浮きます。なんとなく飛ばせてしまう……。昔、私が空ものに興味を抱いたときは、まず機体は買えませんでした。そもそも、買えるお店を見つけるのが大変でした。仮に見つけたとしても、売ってもらえない。お店の人が、「君じゃ無理だから」「まずはこれだけのものを用意してくれ」とか言って。あと、必ず講習も受けなくちゃならなかったんです。
イットク:昔から、ラジコンという分野で扱われていたからね。ラジコンに携わる人たちは、事故を起こさせたくない。だから、そういう人たちに指導を受けるのが普通でした。操縦を簡単に考えている人には、「それでは危ないからうちは売れない」と、お店がやっていたんです。今はもう、家電量販店に行けば、誰でも買えちゃう。
――そういう中で、ドローンスクールの役割はどうなんでしょうか?
イットク:簡単に資格を取らせるのはダメです。危ないから。危ないから、みんなじっくりと練習しましょう。そういう言い方をしないとダメですよね。「すぐに誰でも飛ばせます。簡単です」。これはもう、学校としてはナシです。なんのための学校かというと、皆さんに安全に飛行させるのが目的です。「簡単じゃないですよ」「難しいですよ」「危ないですよ」「だから、これだけの練習をしてください」。そう言わないとまずいです。もちろん、いろいろな考え方のドローンスクールがあるのは分かっています。もしかしたら批判も来るかもしれません。しかし、皆さんに安全に飛ばして欲しいからハッキリ言います。「簡単だ」というところはアウトです。数日で飛ばせるなんてのは無理です。2~3日で資格が取れるなんてありえません。ドローンを飛ばして稼ぎたいのであれば、プロとして活躍したいのであれば、練習期間は、年単位で考えてもらわないといけません。これはもう、パイロットになりたい人たちを守りたいので言いました。本当、難しいんですよ。操縦は。
――嶋貫さんは、他のドローンスクールが、3日くらい講習を受ければ仕事につながると言っているのを聞くと、どう思いますか?
嶋貫:正直、無理でしょうと思います。ドローンに限ったことじゃないですが、たかだか数日の講習を受けたからと言って、プロとして仕事ができるかというと、そういうものではありません。逆に、なんでそう言えるのか不思議に思いますね。
イットク:なんか、危険なこと言ってるね、俺たちね(笑)。でも言ってあげないとね。
嶋貫:UAV(ドローン)に限ったことじゃなくて、たとえば重機にしろ、フォークリフトでもそうです。そういうものなら、業務で使う場合、最初は先輩が教えてくれると思います。そうして、だんだんと慣れていく。ところが、ドローンは教えられる人も限られます。教えてくれる人がいない中でいきなり仕事っていうのは、どんな業界を探してもないですよね。
イットク:フォークリフトなら、動かして、うまくツメが刺さらなかった、でもいいですけど。飛んでいるものであれば落ちてきますからね。UAV(ドローン)は、軽く考えたら危ないです。もちろん、フォークリフトやショベルカーも軽く考えちゃいけないんですけど。本当、皆さんに安全にやってもらいたいんですよね。
資格優先で考えない方がいいです。資格は、今のところ、そのドローンスクール内や環境でしか通用しません。資格よりも技術を身につけることが絶対です。資格につられてやらない方がいいです。もちろん、きちんとしたカリキュラムをやっていて、きちんとした資格を出しているところはあります。そういうところはいいです。そうじゃないところもかなりの数あるみたいなので。
今後、ドローン業界はどうなっていくのか? 42:53
イットク:今後は、いろんな分野に分かれてくると思います。完全自動でドローンが飛ぶ、そんなシステムでやったりとか。これまでは、ドローンの仕事というと空撮がほとんどでした。空撮は、もう今は簡単ですよね。スチールなんかの撮影は、誰がやってもきれいに撮れます。最近では、地下鉄の構内の点検するのに、UAV(ドローン)を使ったりしています。あと、土管の中の点検だとかも。屋根屋さんが屋根の点検に使ったり、塗装屋さんが壁の点検に使ったり。いろいろなところで飛んでいます。ちなみに、今うちでは、山の中の作業場に機材を運ぶ大きな機体を開発しています。いろんな分野でドローンが活躍しています。
だからこそ、今のうちに基本的な操縦をしっかりやっておかないといけません。基本が身につけば、そこから先は各専門分野になります。専門的な操縦方法やテクニック、知識が必要になります。
今、うちにありとあらゆる企業から、ドローンを使った仕事の依頼が来ています。それを、どんなパイロットにも任せられるのかと言えば、そうではありません。適材適所で、その仕事がこなせるパイロットを派遣しなくちゃいけません。
これから、いろいろなところでドローンが飛び始めるはずです。
――嶋貫さんは、こういう話しを聞くとどう感じますか?
嶋貫:そうだなと思います。基本の操作は、どの分野でも変わりません。そこは車と一緒です。まずは教習所で免許を取る。運転ができるようになる。それから専門的な訓練を積み、ドライバーとしての仕事に就く。そういう流れは、ドローンの世界でも同じになるはずです。だから、まずは基本の操縦や知識、法律やルールなどを覚えなければなりません。
――ワクワクする未来ですか?
嶋貫:そうですね。ワクワクするのは当然あります。ただ、ドローンを飛ばすということが、安易に広まって欲しくはないですね。パイロットの数だけ増やすようだと、質が低下してしまいます。質が落ちれば事故につながります。今は、何かあるとすぐに叩かれたり批判されてしまいます。そうなれば、また法律やルールが厳しくなってしまいます。UAV(ドローン)は、その典型かなと思います。
イットク:それとね、無理にUAV(ドローン)を使う人たちがいるんですよ。「ここは使わなくてもいいじゃん」みたいなところでも、無理に使おうとする。使うべきところで使うのが大事だよね。
嶋貫:手段の一つとして使うものですね。何でもかんでもではなくて。
イットク:「UAV(ドローン)を導入すれば、問題が効率よく解決するんでしょう」なんて企業さんもいます。でも、全部じゃないんですよ。条件に合ったものしか、UAV(ドローン)で解決はできません。使いこなせば便利。そんなアイテムとして使うべきものです。すべてドローンに任せればいいわけじゃないんですよね。これからは、いかにUAV(ドローン)を使いこなせるかが重要です。
今日も昼間、建築関係のお客さんが来て、そういうことを話していました。でも、全然まだまだ、ドローン業界のことを知らない。会社としては導入したい。でも、社員さんの知識が着いてきていない。そんな状況で導入を進めても危ないんですよね。「導入しました。効率が落ちました。危険が増えました」では、意味がありません。UAV(ドローン)が便利なアイテムとして活用できるようにしていかないと。
――今後は、より盛り上がっていきますか?
イットク:盛り上がっていくはずです。ただその分、事故も増えてくるでしょうね。今でもすごいあるんですよ。皆さんに知られていないだけで、ものすごい数の機体が落ちています。
――今のうちに基本的な知識と技術、法律などを学んでおくと、今後は有利ですか?
イットク:有利です。確実に有利です。2022年以降、ドローンの操縦を国が免許制にすると言っていますので、じゃあそれから学べばいいかというと、そうではありません。早く始めて、早く技術を身につけないとダメです。なぜなら、そのときに始めても、すでに技術を身につけている人がたくさんいるわけです。そういう人たちには敵いません。
UAV(ドローン)は、いろいろなところで使われるようになります。たとえばカフェで、コーヒーをドローンで空中から運ぶとか。これこそ無駄な使い方ですけどね(笑)。でも、そういった時代だって来ますよ。なので、未来は明るい。ワクワクすることがいっぱい待っていると思います。
だからこそ、自分たちがやるべきことは、日々の練習だよね。それしかない。
嶋貫:やり続ける。日々、実践ですね。
イットク:現場で、いかに安全に業務を遂行するか。私も15年、UAV(ドローン)の仕事をしていますが、まだ仕事中に落としたことはありません。もちろん、これからも落とさない保証はないですけど。でも、仕事で落としているパイロットをたくさん見ているので、自分としては、いつも安全に飛ばさないといけないなって思います。そういう使命のもとにやっています。それだけはね。安全第一。当たり前の言葉ですけど。
――これからドローン業界に入ってくる初心者さんに、何か一言ありますか?
イットク:とにかく、簡単に考えず、本当に危ないものだという認識を持って欲しいですね。そして、本物の知識と技術を身につけていただきたいです。そうすれば、プロパイロットとして、楽しい仕事がいっぱい待っています。そう、本物です。本物を見つけてください。そうすれば、楽しいフライトライフが待っています。
嶋貫:もしドローンスクールに行くなら、機体も扱っているところをオススメしたいですね。機体は、教えてもらうところで買うのが近道です。なぜなら、よく分かっている人のアドバイスを受けながら買ったほうが間違いがないからです。自分で機体を買ってから通うよりも、最初からすべてお世話になるほうが近道です。
イットク:ただ、そのすべてお世話になるドローンスクールが、ちゃんとしていないと問題なので……(笑)。
嶋貫:そこの見極めは、かなり難しいかもしれませんね(笑)。
イットク:いいところにあたる確率が低いから。
――そこは、以前書かれたという『ドローンスクールの選び方』の小冊子を見ていただくことになりますかね?
イットク:そうですね、問題な本を書いてしまったので(笑)。
この本です。こんなものを作ってしまいました。これを読んでいただければ、おそらく大丈夫だと思います。失敗しないドローンスクールの選び方。スクールビジネスの嘘と本当ってやつでね。かなり危険なことが書いてあります。でも、これを読めばいいスクール、行っちゃいけないスクールが分かると思います。行っちゃいけないスクールというと、問題がある言い方ですかね。でもそうじゃないと、卒業した方が事故を起こしちゃったり、大金を払ったのに満足に飛ばせないとか、いろいろと弊害が出てきます。だから、あえて言っています。ほんとに、簡単じゃないんですよ、飛ばすのは。だから、しっかりとしたドローンスクールに通って、ちゃんと教わってほしいんですね。
――その『ドローンスクールの選び方』は、どうすれば手に入りますか?
うちのホームページにある問い合わせフォームから「小冊子ください」と言っていただければ、お送りします。
※現在、小冊子の送付は終了しています
イットク:こんな本まで作ってしまったので、我々としては、責任を持っていいパイロットを育てていかなくちゃいけないなと。
嶋貫:そうですね。
イットク:もちろん、楽しいことが一番大事です。楽しく学びながら、楽しく技術を身につける。楽しく仕事をする。ただ、楽しいんですけど、緊張感も大事です。私も今だに、現場に行けば緊張します。仕事内容によっては、足が震えるようなときもあります。その緊張感が、また楽しいんですけどね。こんな緊張するような現場仕事しか、私のもとに来ないんですよ。簡単な仕事くださいとか思いますけどね(笑)。皆さんは、とにかく初心を忘れないようにしてもらいたいです。