12月7日 朝日新聞「ドローン規制強化、1 0 0グラム以上に 危険性指摘受け」

「ドローン規制強化、100グラム以上に 危険性指摘受け」 00:00

――12月7日に朝日新聞で、「ドローンの規制強化、100グラム以上に 危険性指摘受け」という見出しのニュースが発表されました。これは結局、誰にとってどんな影響のある内容なのですか?

中村一徳(以下略):これは、ドローンを始めたばかりの初心者さんや操縦、法律などをよく分かっていない人が、簡単に飛ばせなくなるような規制です。これまでは200g未満は航空法の適用外でした。だから、皆さん200g未満の軽くて高性能な機体を買って飛ばしてたわけです。しかし、その裏では、バンバン墜落や事故が起きています。そこで国としては、規制をかけたいのですね。

そのほうが、私たちのように、仕事でドローン飛ばすプロにとっては助かります。事故が起こるたびにドローンのイメージが悪くなるからです。この間も、紅葉が綺麗なところに住んでいる人から、「みんな勝手にドローンを飛ばして困っている」なんて電話がかかってきました。もちろん、ただバーッと飛ばすだけなら構いません。しかし、機体を人にぶつけたり、山火事を起こしてしまうなんてこともありますからね。

仕事で飛ばす人以外が、いろいろとやらかしてくれています。その結果、去年も航空法に4つ項目が足されました。「え? そんなこと」と思うような、本当にくだらない内容です。例えば、「お酒を飲んで飛ばしてはいけません」とか「人に迷惑をかけて飛ばしてはいけません」みたいなことです。結局それは、遊び半分で飛ばしている人がトラブルを起こしているからです。それで規制がかかるんですね。

そういう方たちの中でも「飛行許可」を取っている人はいますが、本当に「飛行許可」に必要な技術があるかどうかは分かりません。なぜなら、申請すれば通ってしまうからです。国がきちんと試験をしているわけではありません。だから、許可はあるけど、許可が下りるにふさわしい操縦技術や知識があるかどうか、それだけでは判断できないのです。実際、プロパイロットから操縦を習ったことがない人は多いです。

「重さ」ではなく「性能」で規制をかけるべき 04:14

100g以上に規制を強化したところで、問題は変わりません。100g未満で高性能の機体を作られたらそれまでですから。

重さで規制するのではなく、機体の「性能」で規制をするべきです。「性能」というのは、例えば「電波が500m以上届く」とか、「GPSが入って自動航行できちゃう」とか、「10分以上の飛行ができる」といったことです。あと、「気圧センサーが入っている・入っていない」「GPSの信号を読み取れる・読み取れない」といったこともそうですね。

そうしないと、いたちごっこになるだけです。99gで性能のよいものを作ればいいだけの話ですから。実際、できる国はありますからね。ただ日本は、今の技術力では難しいでしょう。

いつも日本は後手後手です。こういうことを指摘できる人が、政府の中にいないのかもしれないですね。最初から性能で規制していれば、今みたいな問題にならなかったと思います。重さで規制をしていたら、また同じことになるだけです。

100g以下でも性能のよい機体は作れる 07:51

ドローンの機体は、100g未満でも作れます。実際、小さな機体を自作している知り合いがいます。有名な人なんですけどね。自分で作ってます。もしそれが製品化されても100g以下なら、登録する必要はないわけでしょう。

100g未満でも、高性能の機体は作れます。例えば、マイクロドローンの中には、GoProを積んでいる機体があります。GoProは重たいです。では、どうやって積んでいるのかというと、ボディを全部はずして、中の回路とレンズだけを積み直しています。それにより、断然軽くなります。これなら、小さな機体でも詰めます。そうやって改造できる人は、どんどん軽い機体を作っちゃいます。

しかし、機体が小さくなっても問題は変わりません。例えばトイドローンも、今では性能がよくなってきています。もし子どもが駐車場で飛ばしていたら、走ってきた車にぶつけてしまうことだってあるでしょう。小さければ小さいほど、よく見えなくなりますから。バーッと飛ばしていて、誰かの目に当たって失明することだって考えられます。もし「99g以下なら大丈夫」となってしまえば、「Mavic Mini」より安全性が低い機体でも、誰もが気軽に飛ばせてしまいます。

規制が必要なほど事故が激増しているのか? 12:23

――今回の政府の方針は、それほど今、事故が増えているということでしょうか?

そうだと思いますよ。事故やトラブルが増えています。今年の紅葉の季節に知り合いから電話がかかってきたのもそういうことです。駐車場で飛ばしている人がいると。たくさん人がいるその上空を、ドローンがバンバン飛んでいたみたいです。それで警察に電話したみたいです。すると、「規制外だからうちは関係ない」といった対応です。では町に訴えたら、「管轄じゃないから分からない」とたらい回しにされたみたいですよ。それで、誰も注意できなくて困っていたのだとか。たまたま墜落や事故がなかったからよかったのもの、そういうことは日本のあちこちであると思いますよ。それで今回、政府は慌ててそういう方針を打ち出したのではないでしょうか。

事故が増えている理由 13:40

――事故が増えているのはどういう背景があるのですか? つまり、通販でたくさんの機体が安く売られている。性能もよい。気軽に誰でも買って、すぐに飛ばせる。そういう機体が増えていることと事故が増えていることは関係がありますか?

関係ありますよね。例えば、手軽に買えるトイドローンも、今どんどん性能がよくなってきています。だからこそ、トイドローンにも規制がかかるようにしないと。100g未満であればOKなんて言っているのはダメです。今なら、素人でもすぐに通販サイトで買えます。

――ドローンは、人から操縦を習わなくてもすぐに飛ばせるものなのですか?

すぐに飛ばせる機体がいっぱい出てきました。もちろん飛ばせるといっても、何かあったときに自分でコントロールできるわけではありません。スイッチを入れたらワーッと飛ぶ。そんなものがたくさん販売されています。少し前までは、ちゃんと人から習ったり練習しないと飛ばなかったんですけどね。今はスイッチひとつで浮き上がって、スイッチひとつでホバリングします。トイドローンでもいっぱいありますよ。

――そうなると、誰かから習おうという気にはならなさそうですね

そうですね、ならないでしょう。そういう方は、実際に飛ばして、事故を起こして初めて分かります。飛ばすべき段階じゃなかったということが。事故を起こさないと分からないんですよね……。

――それで事故が増えているから、今回、国は規制をかけているのでしょうか

そうだと思いますよ。これはおそらく、DJIの「Mavic Mini」とか新しく出た「DJI Mini2 」などの機体を標的にしているのでしょう。

中国製の機体を排除したがる日本 17:01

――最近、中国製の機体を排除するという動きですね。政府の動きが慌ただしいのですが、何か理由があるのですか?

う~ん。どうなんだろうね。本当は、中国製の機体だって、きちんとしたプロから操縦を習えば、安全に操縦できるし仕事の幅も広がるし、いいことばかりなんですけど。「中国製だから排除」じゃなくて、性能のよいものは認めていかなくちゃ。そういうことを続けていけば、ドローンの技術がどんどん遅れ、日本は世界から取り残されます。

実際、建築の分野で「i-Construction」があるじゃないですか。ICTの取り組みの中で、ドローンなどを使っていろいろとやりましょうというものが。それを政府は押しているのですが、現場では、何をやったらいいのかどんな機体を使ったらいいのか分かっていない状況なのです。そこで、今すぐパッとできる機体としては、DJIのものくらいしかありません。日本製のドローンでやろうとすれば大変です。大掛かりになってしまったり価格が高かったりで、手軽に買えません。うちもよくやる工場の点検は、日本製ではできません。日本製の機体だと、できない仕事が山のようにあります。

これからどうなるのか分かりませんが、うちはもう、うちのやり方でやるだけです。いつでもどんな場面でも飛ばせる、そんなプロパイロットをどんどん育てていく。それだけです。だから、後は様子を見守るしかないですね。

仕事でドローンを飛ばしている人への影響は? 21:14

――今回のこの規制は、仕事で飛ばしている人には、何か影響があるのですか?

今仕事で飛ばしている人たちには、ほとんど影響はないですよ。別に私も、規制がかかったからといって、仕事のやり方は変わりませんから。もしかすると100g以上の機体も、登録をすればいいのかもしれません。もし「Mavic Mini」や「Mini2」が規制の対象になるとしたら、きちんと登録して、仕事で使えるようにしておけばいいだけです。

この規制で一番困る人とは? 22:13

――今回の規制によって、一番困るのは誰ですか?

遊びで飛ばしている人たちでしょう。ただ飛ばしたい人。高いところからの写真を撮りたいような。そういう操縦を習ってまで飛ばす気がない人たちが困ると思います。

後は、いたずら目的で飛ばすような人です。記事にも書いてありますね。「事故やトラブルも後をたたない。報告が83件あった。関西空港では、無許可のドローンとみられる物体の目撃情報が相次ぎ、4回にわたって滑走路が閉鎖、発着便が遅れるなど混乱した」。こういういたずらに、国は翻弄されているわけですよね。

仕事でやっている人は無許可では飛ばしません。仕事ができなくなってしまいますから。

機体情報の登録を義務化しても意味はない? 23:30

さらに記事にはこうありますね。「こうした事態に対応するため、政府は今年6」月に航空法を改正し、所有者や操縦者の名前と住所を含む機体情報の登録を22年までに義務化することを決めた」。

これ、義務化しても意味ないですからね。今でさえ義務化されているようなものです。それでもこういう問題が起こってくる。あと、これは半分冗談ですが、テロに使う人が登録するか、ですよね。「私はドローンをテロに使うので機体を登録させてください」。そう言うと思いますか? 言わないですよね。つまり義務化したところで、登録せずに飛ばす人たちは必ず出てきます。興味半分だったりいたずら目的で飛ばす人が、いちいち登録しないですよね。

だから、規制をかけるなら機体を販売するところじゃないとダメですよ。ドローンを扱う店舗に。機体を売るのであれば、買う人の免許証を確認する。そして、誰々にいくつの製造番号の機体を売ったかを報告させる。そういうふうにしなければ意味がありません。これは、アメリカのガンショップがそうですよね。買うときは身分証が必要で、買った人の名前とか銃の製造番号が分かるようになっています。こうすれば、遊び半分やいたずら目的の人は、わざわざ登録しないですから。

まじめにコツコツ練習している人には関係ない 28:40

とにかく、ちゃんと飛ばしている方には影響ありません。特に、うちで練習を頑張っている生徒は心配しなくても大丈夫です。きちんとした操縦で飛ばせて、きちんと仕事ができるようにしますから。飛行許可も、10時間という目先の数字に惑わされず、それを取るのにふさわしい飛行ができるところを目指します。うちは、何百回飛ばしても同じ飛行ができないといけません。そうじゃないと、飛行許可の取得は勧めていません。「たまたまこんな操縦ができました」はダメです。だから、今回のことは、まじめにやっている人には関係ありませんよね。