今回のオンラインセミナーでは、ドローンの事故事例について勉強していきます。国土交通省のホームページに「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」というページがあります※。そこにドローンの事故事例が載っています。平成27年~令和2年度まで、年間50~80件ほど、事故が報告されています。この中から、事故事例をいくつか取り上げていきます。
※参考:国土交通省の事故報告
まずは、平成30年度の事故事例を見ていきましょう。1月30日の64番ですね。
発生日 | 2019/1/30 |
飛行させた者又は所属団体等 | 個人 |
飛行場所 | 岡山県倉敷市 |
機体(種類、特徴等) | マルチコプター プロペラ除く直径約60cm、最大離陸重量約3.4kg |
事案の概略 | ・空撮のため無人航空機を飛行させていたところ、樹木に接触し墜落した ・本件事案による人の負傷及び第三者の物件の被害はなかった ・なお、操縦者の操縦経験は1060時間以上 |
航空法上の許可、承認の要否 | 第132条第2号(人口集中地区)、第132条の2第3号(30m未満の飛行) |
許可・承認の有無 | 有 |
当局の対応 | ・原因分析と再発防止策の検討を指示した |
報告された原因分析及び是正措置 | 【原因分析】 ・操縦者、監視員ともに接触した場所の対岸に配置していたため樹木との距離感が掴めなかったものと考えられる 【是正措置】 ・飛行前の障害物等の確認を密に行い、適切な場所に監視員を配置する |
まず気になるのは、飛行時間1060時間というところです。私の飛行時間の数え方は、「離陸させた瞬間から着陸させた瞬間」です。例えば、朝10時から夕方16時まで約6時間、飛行場に居たとします。その場合、6時間居ても、実際に飛ばせるのは1時間ちょっとです。バッテリーの交換や充電、休憩などを含めれば、現実的にそれくらいしか飛ばせません。
しかし、この記述だけでは、どういう1060時間なのかは分かりません。「6時間居たから、この日の飛行時間は6時間」とカウントしてしまうパイロットさんもいます。その場合、私の数え方の6倍多く飛ばしていることになります。だから、思ったほど飛ばしていないことも考えられます。
この事故事例は、パイロットさんの経験不足と読めます。ここでは仮に、1060時間も飛ばしているベテランのパイロットさんと想定します。そうすると、この方、操縦はうまいかもしれません。しかし、仕事の現場経験は浅いはずです。木に機体を接触させたり、監視員を対岸に配置していたりと、事前にそこの様子を見ていなかったことが伺えるからです。
このときの機体は、DJI(中国の大手企業)ではなく、別の企業のものかもしれません。60cmのマルチコプター(一般的にドローンと呼ばれているものの固有名詞)だと、『Matris』あたりを飛ばしてたのか。もしくは、自分で作った機体かもしれません。小さな機体、例えば『Phantom』とかではないと思います。『Matris』あたりだともう少し正確に飛ぶので、おそらくDJIの機体ではないでしょう。
もしかしたら、現場に合っていない機体を飛ばしたのかもしれません。私も、いろいろと機体を作ったり飛ばしたりしています。機体によって、正確に飛ぶものと飛ばないものがあります。機体の選択を誤った可能性もあります。
普通に飛ばしていて、なかなか樹木にぶつけることはありません。このドローン操縦者の方は、飛行時間は長いけれども、現場経験が浅い。あとは、現場で使う機体の見極めを間違った。これだけの情報しかありませんが、そういう原因も考えられます。
次は、平成31年のドローンの事故事例を見ていきましょう。
発生日 | 2019/9/11 |
飛行させた者又は所属団体等 | 教育関連団体 |
飛行場所 | 熊本県熊本市 |
機体(種類、特徴等) | マルチコプター プロペラ除く直径約40cm、最大離陸重量約0.82kg |
事案の概略 | ・撮影のため無人航空機を体育館内で飛行させていたところ、操縦を誤り付近の人に接触し墜落した ・本件事案による第三者の物件の被害はなかったが、擦過傷及び打撲を負った ・なお、操縦者の操縦経験は10時間以上 |
航空法上の許可、承認の要否 | 不要 |
許可・承認の有無 | 有 |
当局の対応 | ・原因分析と再発防止策の検討を指示した |
報告された原因分析及び是正措置 | 【原因分析】 ・機体と人との距離を見誤ったものと考えられる 【是正措置】 ・人の付近では飛行させない |
もうね、これはただの技術不足です。体育館で飛ばすのは、すごくリスクが高いです。飛行時間は10時間以上。これはもう、完全に知識と技術不足です。知識や技術がないために起こった事故です。
体育館で飛ばすのは、非常に難しいです。もちろん風はありません。だから簡単そうに思えます。しかし、まったくGPS(機体が自動でホバリングする機能)が入らないのです。そうなると、ビジョンポジショニング(飛行を安定させる機能)が働きます。この機能も、高さによって切れてしまうことがあります。絶対ではありませんが、場合によって、切れる前に高さ制限がかかったりします。下手をすると、完全にATTIモード(機体を手動で操縦するモード)に入って、フラフラ、フラフラしちゃったりすることもあります。
この事故事例では、そういうことをパイロットさんが予測できなかったのでしょう。飛行時間10時間以上ということは、それほど飛行経験がない方です。予想外のことが起きたら、自分で機体をまったく制御できない。それで、ぶつけてしまったのかもしれません。ただ、それだけの事故です。
この事故事例とは違いますが、同じような話があります。以前、たまたま何かの拍子に、ある人がドローンの事故の報告をしているサイトを見ました。どうも、どこかの会場で機体を飛ばすことになったようです。室内なので風もなく、GPSは入らない。しかし、ビジョンポジショニングが働くので大丈夫だろう。そう思って飛ばしたら、いきなりノーコン(コントロール不能状態)になり、向かい側の壁に衝突させてしまったとのこと。どうも、イベント会場だったため、飛んでいるところの下には物がたくさんあったようです。だから、ノーコンではないと考えられます。これもパイロットさんが、GPSやビジョンポジショニングのない状態で飛ばせないのが原因です。このパイロットさんは、普段なら止められる状況なのに止まらない状況に陥り、いきなり加速したため、そのまま激突させてしまったのでしょう。感覚としてはノーコンだったと思います。しかし、それはただの感覚です。実際はフリーになっていますから、しっかり手動で操縦しないと、それはぶつけてしまいますよね。
自分で機体を制御できないと、こういう事故はよく起こります。今日も、うちのドローンスクールでは、午前中から複数の生徒さんが飛行練習をしました。練習は、GPSやビジョンポジショニングなしでもやります。そのため、フライトエリアはものすごいことになります。もうね、どこから機体が飛んでくるか分からない。機体をファーッと加速すると、自分でブレーキをかけない限り、惰性で進み続けます。自分で制御できないと、事故や墜落をさせてしまいます。それを、「ノーコンになった」という一言で片付けてしまうパイロットさんが多々います。ノーコンではありません。そういう気がしただけです。送信機のスティックを戻せば止まるはずの機体が、止まらなかっただけです。
こういう事故事例は、私もたくさん聞きます。とくに、室内だと風がないので油断してしまうのでしょう。しかし、室内は非常に操縦が難しいです。GPSが入らないのはもちろん、状況によっては操縦用の電波が切れてしまうこともあります。そうなると、ノーコンどころの騒ぎじゃありません。GPSが入っていないのでその場で機体が停まることもできず、リターントゥホーム(機体を自動で帰還させる機能)も利きません。大変なことになります。もう、大暴走ですよね。間違いなくどこかに突っ込んでいきます。
なので、私はいつも言いますが、知識と技術がなければ、ドローンを仕事で飛ばさないでくださいということです。もちろん、私もけっこう危ない目に合ってきました。幸い、仕事ではまだ一度も墜落させたことはありません。しかし、ずっと飛ばしている私でも、しょっちゅうヒヤッとすることがあります。
この58番の事故事例は、操縦者の知識と技術がないだけと言えます。それだけの事故です。事故を起こした人も、「なんか急にドローンが操縦できなくなっちゃった」と思ったはずです。それでぶつけてしまった。これは人災です。こういう事故を起こさないためには、資格や免許ではなく、知識と技術が必要です。会員の皆さんは、こういう事故を起こさないように、一緒に学んでいきましょう。
では、次に令和2年の事故事例を見ていきましょう。
発生日 | 2020/5/18 |
飛行させた者又は所属団体等 | 空撮事業者 |
飛行場所 | 富山県富山市 |
機体(種類、特徴等) | DJI製 Matris201RTK |
事案の概略 | ・空撮のため飛行中、突風に煽られそのまま落下した ・本件事案による人の負傷及び第三者の物件の被害はなかった ・なお、操縦者の操縦経験は10時間以上 |
航空法上の許可、承認の要否 | 132条の2第7号(30m以内) |
許可・承認の有無 | 無 |
当局の対応 | ・原因分析と再発防止策の検討を指示した |
報告された原因分析及び是正措置 | 【原因分析】 ・機体が突風で煽られた際に、操縦者が慌てて操縦ミスをした ・機体と操縦者、監視者と操縦者との距離が通常以上に離れており、機体の挙動に対して繊細な操縦が行えなかった ・撮影範囲が広大な業務は初めてであり、操縦者・監視者共に経験が少なかった 【是正措置】 ・一定期間に一回以上の突風を感じる場合は飛行を行わない ・突風が生じるような場所にはとどまらない。また、そのような場所で、繊細な操作が必要な場合は、操縦者と機体、操縦者と監視者の位置をなるべく離さない ・通常業務と異なるような状況では、従来よりも監視者や補助者を追加し、配置や伝達方法等を十分に検討して飛行させる |
これもパイロットの経験不足です。原因が、自分たちでも経験不足と分かっていますね。また、是正措置も面白いです。一回以上の突風を感じる場合は飛行を行わない。私などは、一回フライトさせれば、何十回も突風の中を飛ばすことになります。突風を避けて仕事をするなんてできないです。突風では飛ばさないなら、いつ仕事をするんだという話です(笑)。まだ初心者のうちは、風のない日に飛ばしたほうがいいです。突風が吹かない現場はなかなかありませんから。
あと、「機体と操縦者、監視者と操縦者との距離が通常以上に離れており、機体の挙動に対して繊細な操縦が行えなかった」とありますが、これは操縦者と監督者の位置の問題ではありません。これも操縦者の技術不足です。風の中で飛ばしたことがないパイロットさんですね。うちでは、風速4~5mでも、屋外で生徒さんに練習してもらいます。この間も、向かい風の中で飛ばしたら、風で機体が進まず、空中で停まっていました。それくらいやると力になります。
もちろん、「風を怖がるな」ということではありません。非常に風は怖いです。流れを読まなければなりません。突風だって、いつでも吹きます。それまで無風だったのに、突然吹くときもあります。とくに、ドローンを飛ばす現場は、狭い場所や入り組んでいるところが多く、突風が吹きやすかったりします。
「突風が吹かない場所で飛ばさない」のではなく、「突風が吹いても飛ばせる」ことが重要です。突風でも飛ばせる練習を、普段からしなければなりません。これが一番、墜落させないための措置です。自然界で飛行させている以上、突風は必ず吹きますからね。
あと、気をつけたいのは、太陽光フレアです。うちの授業を受けている生徒さんは分かっているはずですが、フレアはよく遭遇します。太陽からの磁気嵐が地球に到達すると、その瞬間、機体はノーコンになったり挙動不審な飛行になったりします。よく飛ばしているパイロットさんなら、多かれ少なかれ経験があるはずです。自然界には、そういう突発的なことがいつでも起こります。
自分の飛行技量に合った仕事をしないと、大変な事故を起こしてしまいます。飛行時間10時間以上で現場経験がほとんどない。こういう方は無理せず、簡単な仕事をするほうが安全です。一緒に気をつけていきましょう。
会員限定コンテンツのためここまで。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。