今回のUAV通信、テーマは「GPSが切れる現場の飛ばし方」です。

中村:今回のドローンの橋梁点検は、非常に高い橋でやりました。橋を支えるコンクリートの柱を点検するために、機体を飛ばしています。

今回使っている機体は、「DJI Mavic Pro 2」です。

このドローンの点検作業のビデオを見ていると、いかにも自動で操縦しているように見えますが、全部、マニュアル(手動)で操縦しています。

今、コンクリートをくまなくドローンでスチール撮影しています。そのデータを専用のソフトにかけると、ヒビの位置が分かります。面白いソフトで、ヒビの幅も全部分かります。何ミリ以下のヒビは何色、何ミリ以上のヒビは何色みたいに出てきます。ヒビの位置と幅を、全部調べ上げてくれるソフトを使います。

ドローンできれいな画像が撮れると、正確なデータができあがります。だから、撮影はすごく重要です。これはドローン測量のときも言うのですが、「ドローンだけでは仕事はできない」と。ソフトだけでも仕事はできない。ドローンでいいデータを取って、いいソフトにかけるから、いい結果が出てきます。データが悪いと、結果も悪いです。撮影は重要です、非常に。

今やっているのは、オーバーラップといって、撮り残しがないように写真を重ねながら撮っています。これ、全部マニュアルでやっています。映像を見ていると、正確に機体が飛んでいるのが分かります。コンクリートの柱と機体の幅だったり、速度だったり、感覚だったり。正確に操縦しています。自動航行ではなく手動です。

ドローンで橋梁点検の仕事「GPSが切れる現場の飛ばし方」2

嶋貫:一見すると大したことをやっていないように見えてしまうかもしれません。しかし、技術的にはかなり高度だと感じます。この日、私は現場にいなかったのですが、相当シビアな操縦が要求されたんじゃないですか?

中村:そうですね! 川にかかっている橋なので、風がランダムに吹くんですよ。あと、機体を見上げながら操作したり、機体から離れて操作しているので、距離感が難しいです。日頃から訓練していないと、その感覚はつかめません。しかも、いつ何が起こるか分からない状況です。それも考えながら飛ばしていきます。これだけ風が吹いている中で正確に飛ばすのは、思っている以上に難しいです。

実は、現場やクライアントの都合上、映してはいませんが、もう一つ奥にある橋を点検しているとき、それは起こりました。最初からそうなるだろうなと覚悟はしていましたが、橋梁の裏に機体が入ったとき、GPSが切れたんですね。そして、風にあおられて、壁側に機体がスーッと流れていきました。そうなることが分かっていたので、すぐにぶつからない位置まで機体を戻し、撮影を続行しました。しかし、かなり危なかったです。そういうこともありました。

この現場では、フリークスガレージの「ドローンプロパイロット養成所」の生徒さん5名を招いて、現場体験してもらっていました。それで、GPSが切れたときに私が、「GPS切れたー! まずいまずいー!」と言って(笑)。焦っていたわけではありませんが、その慌てている姿を見て、みんな楽しんでくれていたみたいです。いや、「こっちは真剣に飛ばしてんだよ!?」って(笑)。

それでも、初めての生徒さんには、そういう危険な状況なども見ていただけました。実際、GPSが切れると、まずいと思うわけですよ。なぜかというと、風がどっちに吹いているか見えないからです。なんとなく分かってはいても、GPSが切れると、風の吹く方向に機体が流れてしまう。もちろん今回は、壁側に流れていくのが分かったので、衝突は回避できました。逆に、風の吹く方向に打を切ってしまうと、壁にぶつかります。そういうことが予測できないと危ない現場です。

ドローンで橋梁点検の仕事「GPSが切れる現場の飛ばし方」3

嶋貫:実際に映像を見ると、高さもありますし、奥への距離があります。映像を見ると、カメラでズームしているので機体の向きが分かりますが、現場では、どのように機体が見えていたのでしょうか?

中村「DJI Mavic Pro 2」は、うちの生徒がよく飛ばす「DJI Mini 2」よりも二周りほど大きい機体ですが、それがマイクロドローンくらい小さく見えます。奥の橋梁まで30メートルくらいありました。高さもあるから、直線距離だと50メートルにもなります。

嶋貫:機体の前後が分かるように、後ろ側に目印がついていましたが、その色すら判断できなくなる距離ではないですか?

中村:そうですね(笑)。例えば、LEDや色のシールがついていても、距離があるとそれすら意味がなくなります。よく生徒からマイクロドローンや小さなラジコンヘリを飛ばしていると、「どうして向きが分かるんですか!」と言われますが、実際、機体が遠いと向きは見えてないです(笑)。

嶋貫:やっぱりそうですよね!

中村:どうすれば向きが分かるかというと、送信機のスティックの動きに対して、機体がどう動くかで判断しています。機体が遠くにあると、目視でもなかなか見えません。だから機体の動きで判断するしかないのです。それも瞬時に。「えーと」なんて考えていたらダメです。瞬時にパッと向きを判断する。

嶋貫:そういった状況は、現場ですと日常的なことですよね。

中村:日常ですね。一日現場でドローンの仕事をしてGPSが切れないなんてことはありませんから。

嶋貫:私もけっこう体験していますが、GPSをON・OFFするのとは違って、効いている状態から急にGPSが切れると、独特の違和感がありますよね。あれを感じ取れるかどうかは重要ではないですか?

中村:そう、違和感があるよね。今まで普通に操縦していて、急にスーッと機体が流れ出す。その瞬間が分からないと、「あっ、なんか動きが変」と思ったときにガシャーンと壁にぶつけてしまう。おかしいぞとすぐに判断できないとダメです。

嶋貫:今回の橋梁点検の仕事ですと、機体の向きの判断が、機体の動きでしか分からないわけですよね。「その状況で事故なくこなせるのがいかにすごいことか」っていうのを、なかなか説明するのは難しいです。映像だけ見ると、簡単にこなしているように見えますから。ある程度やって、いろいろと経験しているドローンパイロットが見れば、これ、地味ですけど、すごいことだと分かるはずですが。皆さんも、そう思っていただければいいんですけど……。

中村:この映像を見て、「これくらいだったら簡単にできそうだ」と思った方は……実際にやってみていただきたいんですけど(笑)。いや、地味ですよ。点検はね。

嶋貫:この映像を見て、ドローンの橋梁点検は簡単な仕事だと勘違いしないでもらえたらいいのですが。

中村:本当にそうですよね。風はある。GPSは切れる。機体と操縦者の距離は遠い。かなり難しいです。

こういう現場では、操縦する位置も大事です。今回はFPVではなく目視でやっています。そのため、機体を見ながら飛ばしています。だから、川の中に自分が入っていく場面も何回かありました。そうしないと、機体が自分の目で確認できないのです。川に浸りながら操縦するなんてこともよくあります。今回の川は浅かったからいいですが、深い川で仕事をすることもあります。そのときに、自分が流されちゃったらダメです。自分の安全も考えなければいけません。そういうことを考えるのも必要です。現場に行くとね。

この仕事は昼間だったので、機体と操縦者の距離はありましたが、まだ機体を目視できました。しかし、山の中とか、機体を目視できない現場とかもよくあります。そういうところだと、GPSが切れたときにやばいじゃすみません。真剣に焦ります。

嶋貫:「やばい!」という自覚は大切ですよね。生徒によっては、機体が壁にぶつかるまで気がつかないケースもあります。そういう感覚でいると、事故を起こしてしまいます。

中村:そうなんですよ! 生徒さんの中でも、ぶつけて初めて「ぶつかった!」と気づくことがあります。「ぶつかる前に気づきませんでした?」「気づきませんでした」って(笑)。いかに周りを見ていないかですよね。機体にだけ意識が集中している。全体を見ていないと、ぶつかる・ぶつからないの感覚がつかめません。

嶋貫:「危ない!」と感じるのも、ある程度のスキルや経験がないと判断できないんですね。

中村:ぶつける場合は、だいたい「危ない!」と言う前に落としてしまう(笑)

嶋貫:練習を見ていると、そういうことが多いですよね(笑)。ぜひ、うちで距離感の訓練を続けてもらいたいです。

中村:今回も、ドローンの橋梁点検の仕事のビデオを見ていただきました。少しでも参考になればいいかなと思います。さらに詳しい話が聞きたい場合は、「UAVステップアップ講習」などで会場に来ていただければと。それでは、今回の「UAV通信」は終わりです。ありがとうございました。