今回のUAV通信、テーマは「ドローンの点検の仕事ではどんな知識 技術 機体が必要か?」です。

中村:このビデオは、フリークスガレージのドローンスクールでやっているドローン点検の講習風景です。

嶋貫:実践に近いものですね。

中村:そうですね。私がよくやる橋梁点検では、橋の裏側も撮りますが側面の撮影もします。それを仮定した講習内容です。例えば、体育館のキャットウォーク(2F)のあちこちに小さな文字の書かれたメモを貼っていて、それを撮影する練習をしています。どこにメモがあるか分からないので、生徒さんは、まんべんなく撮影しなければなりません。また、きれいな角度で撮らないと文字を読み取れない。そういうゲーム感覚の講習です。

嶋貫:実際の業務に通じる、現場に近いやり方ですね。

中村:現場を想定しないといけません。ただ、体育館なので易しいです。風が吹いていないので。風が吹くところでいきなり練習するのは難しい。練習は、まずは無風の中でやります。見ていると簡単そうですが、すっごい難しいんですよね。

嶋貫:壁に近づいたときの機体への影響があります。一般的なドローンスクールさんではこういう練習はしないかもしれません。地面効果については、うちの講習でもよくやります。

中村:今、機体が壁に吸い込まれましたよね。

嶋貫:その影響は無視できません。

中村:これが経験できるのは大きいですよね。

ドローンの点検業務はいろいろな機体が使えます。うちでは、練習ではあえて「DJI Mini2」という機体を使います。障害物センサーなどの装置がないので、壁に近づいていきます。それが危険回避の訓練になります。ちなみに、この機体で、私は瓦屋根や雨どいの点検の仕事もよくしています。

嶋貫:この練習のとき、生徒さんは機体を見ているのか、画面を見ているのか、視聴者は気になるかもしれません。

中村:機体を中心に見ています。画面だけだと危ないからです。私も橋梁点検の仕事では、ほぼ機体を見ています。もちろん、どんなふうに映っているのか、たまに画面を確認することはあります。しかし、自分で確認するのではなくサブパイロットにやってもらいます。サブパイロットに「もうちょっと上に飛行」とか「そのまま横に行ってください」とか、指示をしてもらいます。言われたとおりに高さを変えず、壁と機体の距離も均等に飛ばします。

嶋貫:撮影対象物と機体との距離感を測るのは難しいですよね。

中村:やりながら身につけるしかないです。こういう話をすると、「今の機体は自動航行でまっすぐ飛ぶよ」という人がいます。何も分かっていません。「じゃあ、GPSが入らない現場だったらどうするの?」と。「GPSが入らないので、今日は点検業務ができません」となってしまいます。プロじゃないですよね。実際、先日ドローンで点検した現場は、やはりGPSが入りませんでした。

ドローンの点検の仕事-どんな知識-技術-機体が必要?3

中村:今、実際に映した映像をチェックしていますね。角度がいいです。ずーっとゆっくり飛行させることが重要。角度が深いと手前が見えなくなりますから。

また、カメラの性能もきちんと把握していないといけません。動画で撮るか静止画で撮るかも考えます。動画で撮ると、ずっと連続的に見えて、非常にいい。しかし、画面のアップがしづらい。静止画だと、アップにしやすい。例えば、瓦屋根の点検をすると、細かいヒビまでチェックできます。ただ、撮り方としてオーバーラップという重ね撮りをしないと、見落としができてしまいます。

今、文字の書かれたメモが映像に映りましたね。この生徒さんは、うちで中級を取っています。こういう練習でも、機体を安定飛行させられていますよね。こうした飛行を、「簡単だ」という人がいます。そう思う方、ぜひやってみてください(笑)。非常に難しいですから。

こればかりは練習するしかありません。機体をいかに正確に飛ばせるか。それがすべてです。あと、遠近感が分からないという方がいます。これも訓練しかありません。機体だけ見ていると距離感が分からなくなります。機体とその他の対象物をしっかりと両目で見ます。それで遠近感を養っていきます。機体だけに集中すると、奥行きが分からなくなります。

嶋貫:中級以上のパイロットさんになると、機体だけじゃなく、周辺など見えている範囲が広くなりますね。広い視野が点検業務には必要です。

中村:そうですね。余裕を持った視野。全体を把握できる視野が必要です。機体に集中しちゃうと、視野が狭くなる。そこは非常に重要です。

あと、点検内容によっては「FPV」という画面を見ながらやる場合もあります。このときも、サブパイロットをつけます。サブパイロットが、例えば「壁の右端まであと50cmです」とか「壁の上まで2mです」と指示を出します。指示を出す人もきちんとした知識・技術がないといけません。「この機体は、これ以上壁に近づけると吸いつく」とか。そういうことが分からないと、事故や墜落につながります。的確な指示が出せません。サブパイロットも、非常に重要な役割です。1人ではできないんですよ。ドローンの仕事は。チームワークを養う練習など、うちではいろいろな講習をやっています。

嶋貫:ドローンの点検業務は、いろいろと制約がある中で飛ばすことが多い。そういう難しさはありますよね。

中村:あります。例えば点検業務の練習中、そばで見たいからと機体の真下まで行く生徒さんがいます。しかし、実際の現場では、もしそこが崖だったらどうするのか。川だったらどうするのか(笑)。そういうことを踏まえた、ぎりぎりの立ち位置があります。そこから動かずに点検をしてもらいます。そうすると、「えっ!?」となります。「自分と機体が遠いので、撮影対象物との遠近感がつかめないんですけど!」と言います。いやいや私たちは、そういう中で仕事をしなくちゃいけないんですよーと(笑)。

だって、撮影対象物の真下まで行けるなら、足場が組めますから。足場を組んで安全に作業ができるなら、そのほうがいいわけです。なんでもかんでもドローンでやるわけじゃありません。

嶋貫:現場に行くと危ないと思う瞬間がたくさんあります。まだ経験が少ない生徒さんだと、この危ないということが分からないですね。そういった感覚を室内でまず体験できるのも、この講習の意義ですよね。

中村:そう。生徒さんの機体が「うわんっ」と鳴るときがあります。「あっ、ぶつかりそうになって慌てて回避したな(笑)」と。そういう音をよく聞きます。この中級のパイロットさんも、まだぶつけてガシャーンと鳴った音は聞いていませんが、ヒヤリハットはたくさんあるはずです。それは、本番じゃなくて練習でたくさん経験しておくことが大事です。

ドローンの点検の仕事-どんな知識-技術-機体が必要?【UAV通信17】2


中村:一般のドローンパイロットさんがこういう練習をするには、どういうところでやればいいのかな?

嶋貫:なかなかないですよね。危険ですし。この間、中村さんと一緒にゴルフ場の橋の点検に行きましたが、その現場もやはりGPSが入りませんでした。また、パイロットさんの立ち位置が傾斜なところでした。

中村:橋の下に強風が吹いていたりも。そういうことがありますからね。勝手にどこそこの橋で練習してくれとはいえない。安全に練習できればいいのですが、無理やりやっても危ないですから。

嶋貫:それで事故になってもダメなので。

中村:うちの生徒さんたちは練習コースがあるので、どんどん参加してもらって。「こんな練習、難しくないよ」と思っているかもしれない(笑)。一度でいいから、難しさを体験してもらえたらと。一般の方は、この話を聞いて、そのへんの橋で練習してみようとは思わないでくださいね。危ないので。

今回は、ドローンの点検業務についてお話しました。フリークスガレージならではの練習内容や仕事上での注意点などお伝えしました。ではまた次回。