こんにちは、中村一徳です。埼玉県・秩父地方でドローン操縦の代行や機体制作、プロパイロットの育成、企業向けドローン導入コンサルティングなどを行っています。私たちプロパイロットは通常、ドローンのことを「無人航空機」を意味する「UAV」(Unmanned Aerial Vehicle)と呼びます。しかし、一般的にはドローンと呼ばれ広く認知されていることから、この記事でも分かりやすいようドローンという呼び方を使っています。
現在、ドローンによる墜落・事故が深刻なまでに増えています。事故増加の原因は、パイロットの安全な飛行に対する「意識」や「知識・技術」がないこと、安全な飛行を教えられる「人・団体が少ない」ことにあります。ドローンの事故を防止するには、「ラジオ・コントロール」の知識が不可欠です。そこで今回から2回に渡って、一緒に「ラジオ・コントロール」について学んでいきましょう。まずは前編として、ドローン事故の実態やその原因を探っていきます。
急増するドローンの事故
ドローンを落としてしまったことはありませんか? 今、多くの人がドローンを墜落させています。ニュースでも、墜落事故に関してよく報道されるようになってきました。私の身近なところでも続々と機体が落ちています。機体の墜落は、ときに大きな事故を引き起こします。趣味で空撮をする人、ドローン・スクールを出て民間資格を取った人、プロとして仕事で飛ばしている人、誰もが機体を墜落させる可能性があります。
例えば、私の周辺でも機体の墜落のひどい話があります。今、私は埼玉県の秩父地方を拠点に活動しています。秩父には長瀞(ながとろ)という有名な観光地があります。ここの山々は、空撮するだけでも非常に絵になります。そのため、観光シーズンになると、多くの人がドローンを飛ばします。その結果、シーズンが終わる頃には、1日山歩きをするだけで一袋分の機体の残骸が拾えます。1台ではありません。一袋満杯です。それは安易に飛ばし、落として、そのまま逃げてしまう人が増えていることを意味します。
山に機体を落とすのは非常に危険です。産業機が積んでいるリポ(リチウムポリマー)バッテリーは、非常に発火しやすいからです。そのため、機体が墜落すれば山火事が起こります。実際、数年前に、秩父市の大滝にある東京大学秩父演習林(東京大学大学院農学部生命科学研究所)で、同大学の学生らが山林調査のためにドローンを飛ばしたところ、機体が墜落し、2日間、山林が燃える事故がありました。ドローンの操縦は、一歩間違えると大変なことになります。ちなみに、その後、関係者から電話がかかってきて、「中村さんから操縦を習いたいので教えてください!」と言われました。もっと早く私のもとに来てくれればなと悔やまれます。山で飛ばすときは、くれぐれも細心の注意を払ってください。
プロのドローン・パイロットですら仕事現場で落とします。これは、私が売上世界一のエナジードリンクのCM撮影に携わったときのことです。当初は、企業側がドローン・パイロットを用意していました。そのパイロットは、撮影が始まって10分も経たないうちに、機体を壁にぶつけて燃やしてしまいました。そこで、その企業と私の間に立つ人から、次のような電話がかかってきました。
「中村さん。すぐに機体を持って、こちらに来てくれませんか!?」
「どうしたんですか?」
「いや、企業さんの用意したパイロットが機体を墜落させてしまって……撮影がストップしてるんです!」
どうやら、そのパイロットは、ぶつけてはいけないところにぶつけてしまったようです。それで機体を買いに行く時間もないことから、近くに住んでいた私に連絡が来ました。私は、撮影用の機体「ALIGN M480L」を持って現場に駆けつけました。打ち合わせらしいことはほとんどせず、カットだけ聞いて、こちらでルートを考え、飛ばしました。飛ばし終えると、その人は「なんでそんな飛ばし方ができるんですか!?」とびっくりしていました。うまくいきました。ただ、これは私も怖かったです。ぶっつけ本番でしたから。ちなみに、そのときの映像は無事に世界配信されました。
個人も企業もアマもプロも、誰もがドローンを落としています。実際、国土交通省のホームページに「ドローンの事故事例」が記載されています。その数、なんと年間100件近くの事故が報告されています(報告されていない数を含めると、その数倍は見込めます)。この事故事例を見ると、どんなドローンパイロットが、どんな墜落や事故を起こしているのかが分かります。ぜひ、ご覧になってみてください。
「機体登録制度」が実施された理由
これだけドローンの墜落や事故が起きているので、国が重い腰を上げ、2022年6月20日から「機体登録制度」を実施しました。これは、仕方ない措置と言えます。なぜなら、機体を落としても回収せず、そのまま放置してしまう人が多いからです。先ほどもお話しましたが、山に行けば一袋分もの機体を拾ってくるような状況は、異常としか言いようがありません。私はUUV(無人潜水機)も仕事に使いますが、水中にもたくさんのドローンの残骸があります。日本のドローンによる環境破壊は深刻です。
こんなにも機体の墜落や事故が続けば、国も、どんどん規制や縛りをきつくしてくるのは当然です。最悪、ドローンの飛行自体が禁止となることも考えられます。そうなれば、私たちプロは非常に困ります。当然、日本のドローン業界の発展は止まり、世界から取り残されてしまいます。
ただ、本当に「機体登録制度」というやり方でよいのでしょうか? ドローンの墜落や事故がなければ、本来は不要な制度です。もちろん車のナンバーのような意味を持たせる側面もあるでしょう。ドローンを飛ばす以上、パイロットに責任を持たせないといけません。実際、軽い気持ちで飛ばして、山や川に落っことしたら回収もせず、自治体などに報告もせず、放ったらかしという人がいます。それを防ぐために「リモートID」を導入するというのは、仕方がないことです。
しかし、それなら墜落や事故を予防できるパイロットの育成にも力を入れるべきです。なぜなら、安全な飛行は「意識」の問題だからです。安全な飛行の意識を育むには、2~3日で民間資格が取れるようなものではなく、きちんとした教育機関が必要です。今から20年近く前に、私は日本でいち早くドローン・スクールを開校しました。何百人もの人に操縦を教えてきました。だからこそ分かるのですが、安全な飛行ができる人材を育てるには、年単位の時間がかかります。年単位の時間をかけて、墜落や事故を予防できるパイロットがようやく育成できるのです。しかし、「機体登録制度」は予防ではありません。あくまでパイロットが事故を起こした後の処理を簡易にする、国側の都合の良い制度です。今からでも墜落や事故を予防するためのパイロット教育を国家レベルで進めないと、日本のドローン産業は衰退していきます。
ドローン事故「3つの原因」
ドローンの事故には、以下3つの原因があります。
・「安全な飛行」に対する意識がない
・「安全な飛行」に必要な知識・技術がない
・「安全な飛行」を教えられる人や団体が少ない。
では、詳しく見ていきましょう。
「安全な飛行」に対する意識がない
ドローン事故の原因に、パイロットの「安全な飛行に対する意識がない」ということがあります。安全に対する意識の欠如は、大怪我や死亡につながる事故の原因になります。また、危険な操縦や機体の取扱いにもつながります。
ドローンによる墜落や事故は、空撮や点検、調査など、どこでもまんべんなく発生しますが、農薬散布はとくに多い印象です(「国土交通省の事故報告事例」にも数多くの事例が掲載されています)。農薬散布機は、マルチコプター・タイプだと積める農薬の量が少なく、飛行時間も短いことから、まだまだラジコン・ヘリコプターを使うことが多いです。ラジコン・ヘリコプターですと、機体の全長は3m以上になることもあります。当然、人の上に落ちたら大怪我をします。また、長く硬いローターが高速で回っているので、当たれば、これも大怪我につながります。過去には、年間数件ほど死亡事故も起きていました。
「安全な飛行に対する意識」が薄まっているのは、ドローンが飛ぶ映像やドローンで撮影した映像が、動画投稿サイトやSNSで簡単に見られるのも理由の一つです。今の機体、とくにDJI製品であれば、性能が優れているので、誰でも簡単に空中に浮かすことができ、キレイな映像を撮影できます。そうした映像を、何も知らない人が動画投稿サイトで見れば、「こんなすごい映像が簡単に撮れるんだ!」「ドローンは簡単に飛ばせるんだ!」と思い込んでしまいます。
しかし、動画投稿サイトにアップされている映像は、“うまくいったテイク”だということを忘れてはいけません。つまり、何十回と障害物にぶつけたり墜落させた末に、たまたまうまく撮れた動画を、私たちは見ているのです。もちろん、一発撮りで素晴らしい映像を撮るパイロットもいますが、その数はほんのひと握りです。
安全に対する意識がないために、飛ばす前のチェックを怠る人がいますが、大変危険です。先日、あるドローン・パイロットさんと一緒に仕事をしました。その方、非常に危険なローターの取扱いをしていました。それは、飛ばす前に、機体にローターを取り付けるときのことです。その機体は、ローターがモーターと反対に回ることで自動的にネジが締まる逆ネジ式でした。逆ネジ式の場合、最後は自分の手でキュッと締めて、取付けを確認します。しかし、その人はローターを手でくるくる回しただけで確認を終えました。その結果、離陸した瞬間、ローターだけがバーンと飛んで、機体はその場でひっくり返りました。もし、これが飛行中に起きたら機体は墜落し、大きな事故を引き起こしたかもしれません。
「安全な飛行」に必要な知識・技術がない
ドローン事故の原因に、パイロットの「安全な飛行に対する知識・技術がない」ということがあります。事故や墜落の多くは、電波の知識不足が招いています。また、安全に対する知識がないために、危険な機体の取扱いをする人もいます。機体の安全装置にばかり便り過ぎていたり、緊急時に対応できる操縦力がないことも、墜落や事故の原因です。
機体の墜落事故の多くは、電波の知識がないことが原因です。ドローン操縦用の電波帯は、例えば「40MHz」「72MHz」「73MHz」「169MHz」「900MHz」「2.4GHz」「5.8GHz」などがあります。しかし、プロと名乗る人でも、電波帯は「2.4GHz」しかないと思っている場合があります。「2.4GHz」は汎用的な電波なので、Wi-Fiやスマートフォン、電子レンジ、ワイヤレス・イヤホンなど、ありとあらゆる機器に使われています。もし、それらがドローンを飛ばしている空間で使われていたら、混信して機体はノーコンになります。機体を飛ばす環境に合った電波帯を使わないと、事故につながるのは当然です。
電波の知識がないパイロットが飛ばすと、悲惨な事故が起こります。 以前、岐阜県で、子どもたちのためにドローンを使って空中から飴をまくというイベントがありました。そこで使われたのは、直径約85センチ、重さ約4キロの機体です。この機体が参加者の上に落下し、多くの怪我人が出ました。会場は、子どもたちの泣き叫ぶ声が響き渡ったといいます……。
私はこのニュースを見たとき、すぐに原因が分かりました。大勢の人が集まるところでは、携帯電話を中心に「2.4GHz」帯のさまざまな機器が使われます。そこでドローンを飛ばせばノーコンになります。こういう状況下では、プロなら絶対に飛ばしません。飛ばす前から墜落することが分かっているからです。これも、パイロットの知識不足が招いた悲しい事故です。
ドローンの飛行中は不測の事態が起こりやすいので、対処できる技術が必要です。例えば、山や建物が遮ってGPSが入らなくなったり、突風で機体が流されたり、太陽フレアで電波がロストしたりすることはしょっちゅうあります。私のクライアントは、ドローンで測量中、「DJI Phantom」クラスの機体がタカに襲われ、つかんで持っていかれました。このときは自動航行で機体はプログラム通りにしか動かないため、どうしようもありませんでした。もしこのときマニュアル(手動)操縦をしていれば、鳥の攻撃を回避する手段はいくつかありました。例えば、機体を鳥に向かって飛行させると怖がって逃げていきます。しかし、これはうちのドローンスクールでいう「上級」レベルの操縦力(手足のように機体を動かせる)が必要です。何年も練習を積み重ねた人にしかできません。よく大手企業が日本のあちことで自動航行の実証実験をやっています。しかし、鳥に攻撃されることや、さまざまな不足の事態に備えている企業はどれだけあるでしょうか。そう考えると、今後どんどん墜落していくと予測できます。
本番で通用する操縦力を身に付けるためには、日々、現場さながらの環境での練習が必要です。そうした練習をせずに、いきなり本番で飛ばしてしまうパイロットが墜落や事故を起こします。無風の状況や、GPSや各種センサーが入る状況でいくら練習しても、実際の役には立ちません。うちのドローンスクールでは、強風でもGPSが切れても、驚かずにそつなく飛ばせるようになってから、初めて現場に出られます。そうしなければ、事故を起こすパイロットを量産するだけだからです。
「安全な飛行」を教えられる人や団体が少ない
ドローン事故の原因として、パイロット志望者に未熟なインストラクターが教えているということがあります。例えば、送信機のスティック操作一つ取っても、誤ったことが教えられています。なぜ未熟なのかというと、おもちゃのドローンから始めていることや、操縦歴の短いことがあります。
最近では、未経験のアルバイトでもドローンスクールのインストラクターになれるようです。うちの「無料ドローン操縦体験会」に来た方が、あるドローンスクールの説明会に行ったそうです。そこで、スタッフに「インストラクターになるのは難しいんでしょうね?」と聞いたところ、「明日からでもなれますよ。ぜひ来てください」と言われたそうです。実際、ドローン操縦のインストラクター関連の求人サイトを見ていると、「アルバイト募集」や「未経験可」といった単語が並んでいたりします。これは怖いことです。
うちのドローンスクールでは、「0から始めて現場に出るまでには、最低でも1年、理想は2年以上かかる」と言っています。「安全な飛行」を第一優先とするなら、それくらいの期間がかかります。「安全」のための時間を、お金で買うことはできません。
私のドローンスクールには、「他のドローンスクールを2~3校出ました」という人もよく来ますが、操縦を見ていると、誤ったことを教えられたなと感じることが多々あります。例えば、機体を止める際に送信機のスティックから指を離してしまう人がいました。話を聞いたところ、前に通っていた学校のインストラクターから、「もし機体の動きを急に止めたいときは、スティックから指をバッと離してください」と指導されたのだとか。これは大変危険です。もし、それが自動車なら高速道路で前の車にぶつかりそうになったとき、「ハンドルから手を離してください」と言っているのと同じです。絶対に止めてください。危ないときこそ、スティックから指を離してはダメです。指を離したら、危険を回避するため、数ミリ単位の細かい操作ができません。
他にも、送信機のスティック操作の理解で、誤ったことが教えられています。あるドローンスクールでは、「スティックは親指でグッグッと押してください」と教えているようです。これはまさに、オンかオフか、0か100かの操作です。こんな操作をすると、機体の動きはブワン、ガクン、ブワン、ガクンとなり、まったく安定感がありません。大変危険です。そもそも皆さん、送信機のことをプロポと言いますが、プロポは「プロポーショナル・システム」の略語で、0から100までの間を任意に操作する「比例制御」という意味です。このシステムは、例えば0から20、0から50といった具合に、細かく繊細なスティック操作をするためのものです。親指でグイグイ押して、0か100かの操作をするようにはできていません。スティック操作の教え方だけ見ても、きちんと教えられる人や団体が少ないようです。
また、送信機のスティックの名称に関しても、誤ったことが教えられています。スティックには、それぞれ「スロットル」「エルロン」「エレベーター」「ラダー」という正しい名称がついています。しかし、学校によっては「スロットル」を「上昇・下降」、「エルロン」を「右移動・左移動」、「エレベーター」を「前進・後退」、「ラダー」を「右旋回・左旋回」という言い方で教えているそうです。うちのある生徒さんは、他校に通っていたとき、「スロットル」「エルロン」「エレベーター」「ラダー」という名称に対して、「昔はそういう言い方だった」「その用語は別に覚えなくてもいい」と教えられたそうです。しかし、それは間違いです。きちんと意味があって、その正しい名称が使われているわけです。
「上昇・下降」「右移動・左移動」「前進・後退」「右旋回・左旋回」という教え方は、明らかに間違いです。例えば「エレベーター」は、「前進・後退」ではありません。正しくは、「機体の機首を『上や下』に傾けること」を言います。機首を「上や下」に傾かせることで推進力を得て、機体は前や後ろに進みます。同じように、「ラダー」や「スロットル」「エルロン」にも、こうした本質的な意味があります(難しくなるので各詳細は省きます)。動きの本質が分かっていないと、より高度な飛行テクニックが身につかないばかりか、自分の技術を狭めてしまうことにもなります。当然、危険な操縦にもつながります。
なぜ、このように正しくないことが教えられているのかというと、インストラクターの多くが、おもちゃのドローンで始めているからです。おもちゃのドローンの取扱説明書には、先にもお話したように「スロットル」を「上昇・下降」、「エルロン」を「右移動・左移動」、「エレベーター」を「前進・後退」、「ラダー」を「右旋回・左旋回」と書かれています。一度、その簡単な言葉で覚えてしまうと、難しく聞こえる本来の名称でわざわざ覚えることはないでしょう。そもそも、各スティックが機体にどう作用するのか、そのシステムの本質的な意味を理解していないのです。それでは、ただ機体を上下や左右に移動させるくらいのことしかできません。そして、それくらいのことしか人に教えられません。
また、おもちゃのドローンから始めたインストラクターは、必然的に操縦モードが「モード2」となるため、操縦歴が少ない人が多いようです。もともと日本には、ラジコンの世界で長く使われている「モード1」しかありませんでした。「モード1」は、日本人が考えた、細かな操作ができる日本人にピッタリの操縦モードです。「モード1」は、かれこれ60年近い歴史があります。一方、「モード2」も数十年の歴史はありますが、日本で流行ってきたのはここ6~7年くらいの間です。なぜ流行ってきたのかというと、もともと「モード2」に設定されている海外のおもちゃのドローンが、ここ数年の間に日本にドッと入ってきたからです。そうして、日本でも「モード2」が一般的になってきました。よって、「モード2」で飛ばすインストラクターは、どんなに長くても操縦歴は6~7年ほどになります。逆に、「モード1」でやっている人は、長いと操縦歴は50~60年ほどになります。
「モード2」に関して、一つ注意点があります。「モード2」は「エルロン」と「エレベーター」が同じスティック側にあるため、両方の蛇を切ったときに混ざることがあります。詳細は難しくなるので省きますが、「エルロン」と「エレベーター」の蛇が混ざると、やはり高度な飛行テクニックが身につきません。そのため、別の学校で「モード2」を教えられた生徒の多くは、うちで練習を続けていくうちに行き詰まります。その際、「最初から『モード1』にしとけばよかった……」と後悔の声を聞きます。
もちろん「モード2」が悪いわけではありませんが、ドローンを仕事で飛ばすなら「モード1」がお薦めです。もともと「モード2」ができた経緯は、欧米人が、実機のヘリや飛行機と同じ感覚でラジコンのヘリや飛行機を操縦したいと考えたからです。趣味でラジコンヘリや飛行機を楽しむ分には「モード2」で問題ありません。
しかし、年間数千万円以上を稼ぐ日本のプロパイロットの多くは「モード1」で操縦しています。それだけ仕事で飛ばすには最適なのです。これまで、日本で約60年も「モード1」が使われてきたことには、きちんと意味があります。操縦モードは、一度習慣になると変更するのが難しいため、これからドローンを始める場合は、慎重に決めることをお薦めします。
短期間で卒業させてしまうドローンスクールが増えた
ドローン事故の原因として、数日間で生徒を卒業させてしまうドローンスクールが増えてきたことがあります。マスコミ発表によると、現在ドローンスクールは全国に1300校もあるそうです。年々、右肩上がりで増えています。全国の自動車学校が1246校(令和3年 全指連会員の教習所数)であることを考えると、これは異常な数です。
そこまでドローンの操縦を教える学校があるなら、年々墜落や事故が少なくなっていくはずです。しかし、国土交通省に寄せられる事故報告は年々増えています。事故件数と学校の数が比例している……。それは、安易に飛ばす人を量産していることや「安全な飛行」が正しく教えられていないことを意味しています。
本来「安全な飛行」を教えるべきドローンスクールが、わずか数日、簡単なことを教えただけで生徒を卒業させてしまっています。他校を卒業した後にうちのドローンスクールに来た生徒さんの話では、ある学校のカリキュラムは、半日ほど座学があり、その後は学校が用意した機体で簡単な上下や左右の移動を練習。それで修了し、民間資格をもらって卒業とのことでした。待ってください。それくらいの操縦は、私が子どもに10分で教えていることです。事故を起こした際に誰が一番損するかといえば、当事者の生徒さんです。本来は、私たち教える側が生徒を守らなければなりません。
本当に生徒に教えなければいけないことは、どんなに性能の良い機体でも、GPSなどの安全装置はしょっちゅう切れるということです。実際、うちの生徒が知りたがることは、安全装置が切れた際の対処方法や、機体を安全に離陸させて安全に帰ってこさせるための、明日から現場で使える具体的な知識・技術です。当然、それらは数日で教えられるものではありません。ドローンスクールを20年やってきた私でも、数日でプロを育成するのは無理です。わずか2~3日しか学んでいない人を現場に送り出すことは、私には怖くてできません。「安全」について学ぶ時間を、お金で短くすることは誰にもできません。
民間資格や免許制度について誤った伝え方がされている
ドローン事故の原因として、民間資格や免許制度に関する間違った認識が広がっていることも原因です。2022年7月現在(執筆時点)、日本に「国が認めたドローンの資格」(公認)は存在しません。よくドローンスクールの広告を見ていると、「国交省公認」という単語が使われています。もし国が公認したのであれば、それは「国家資格」になります。ところが、ドローンの資格は、今は「民間資格」しかありません。あるのは、各団体が独自に発行する資格です。「国交省公認」は誤りです。よく「資格がないとドローンは飛ばせないんですよね?」と質問されます。もちろん、答えは「民間資格がなくても誰でもドローンは飛ばせます」となります。また、2022年7月現在、日本「ドローンの免許」は存在しません。免許制度は、2022年末ごろに開始が予定されています。しかし、詳細は決まっていない様子です。
あと、これは多くの人が勘違いしていますが、ドローンの免許制度が実施された後も、免許なしで誰でも飛ばせます。従来のように「ドローンの飛行許可申請」さえすればよいのです。これも実際、国土交通省から話を聞いて確認済みです。
では、なぜ「免許制度」が実施されるのでしょうか。それは、国が「現行では飛行を認めていない『有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行』(レベル4)を2022年度を目途に実現」したいからです(免許制度に関する国土交通省の資料より引用)。簡単に言えば、免許があると、上記の条件で飛ばす際などに、いちいち「飛行許可申請」をしなくてもよく、パイロットも国も手続きを簡略化できるわけです。しかし、免許取得は必須ではありません。はっきりと国も言っています。免許制度の実施後も、免許なしでドローンは飛ばせます。
重要なことは、「民間資格」や「免許」ではなく「安全を優先した飛行」かどうかです。私のドローンスクールでは「安全をすべてに優先する」という理念を掲げています。そのため、生徒には初歩から指導しています。例えば、機体を離陸させるとき、周囲を見渡し「離陸します」と声かけをします。着陸するときも、周囲を見渡し「着陸します」と声かけをします。そういえば、ある自衛隊勤務の生徒さんは、「右よし、左よし、上よし」と指差し確認までしていました。やはり「安全第一」の現場で活躍している人は、「安全」に対する意識が違います。他のドローンスクールを卒業後にうちで学び直した生徒さんの話では、このような飛ばす前の作法も、そこでは教えていないのだとか。本来、こういう小さなことこそ大切にしなければなりません。それがあって、初めて安全に仕事を遂行でき、稼ぎ続けることができるパイロットになれます。墜落や事故を起こせば、もう仕事がこなくなってしまうわけですから。
(次号に続く)