UAV(ドローン)プロパイロットの中村一徳です。私は、まだ日本に「ドローン」という言葉がなかった2000年の始め頃から、ドローンの機体の開発や普及に携わってきました。また、15年以上前からドローンスクールを運営してきました。ラジコン歴は46年です。普段は、埼玉県の秩父地方にあるお店で、ドローン操縦の仕事や機体の修理、制作、プロ育成のスクールなどをやっています。

ドローン操縦の仕事は、これから本格的にスタートします。いよいよ日本のドローンは実用段階に入りました。例えば最近では、孫正義さんの「ソフトバンク」とラジコン機器のトップメーカー「双葉電子」が、産業用ドローンの共同開発を発表しました。その背景には、日本政府の中国製の機体排除の決定もあるでしょう。また、近いうちに航空法の規制が、100g以上の機体から適用されることになります。2022年には免許制の導入も確実に。今、ドローン業界は、毎日のように激しく動いています。今後は、ドローン操縦が職業として定着し、「安全に飛ばせる」パイロットの活躍する時代がやってきます。

今回は、あまり知られていないプロの世界にあなたをご招待します。仕事の厳しさとやりがい、実はプロでも機体を墜落させている事実、安全に飛行させるのは簡単ではないこと、プロが大切にしている4つのことなどをお話します。また、3月に発売された「DJI FPV」についても、私の見解をお伝えします。

「ドローン」の本当の意味

最初にドローンという言葉の間違いからお話します。「ドローン」という言葉は、2015~16年ごろからよく聞くようになりました。首相官邸に機体が墜落し、ニュースで取り上げられたからです。その頃から急激に「ドローン」という言葉が広まりました。それ以前は、実は私たちが名付けた「マルチコプター」という名称で呼ばれていました。「マルチコプター」という機体は、2000年代の初め頃、私が仲間たちと一緒に開発し、生まれた機体です。昔は『マルチコプター』というタイトルの雑誌もありました。ところが、いつの頃からか、海外では「マルチコプター」を「ドローン」と呼ぶようになりました。そして、「ドローン」という名称が日本に入ってきて、先ほど話したニュースなどで広まり、今ではあまり「マルチコプター」と呼ばれなくなりました。ちなみに、この場では混乱しないよう、私もなるべくドローンという名称を使いますね。

ドローンというと、回転する羽が4枚以上ついている機体を思い浮かべるはずですが、その認識は正しくありません。もちろん、その機体はドローンです。しかし、正しくは、それが「マルチコプター」です。また、ドローンというと「ラジコンのヘリコプター」や「ラジコンの飛行機」も当てはまります。なぜなら、無人で飛行するものを「ドローン」と言うからです。無人で飛ぶ機体は、正式には「無人航空機」と言います。「無人航空機」は英語で「Unmanned Aerial Vehicle」、略して「UAV」です。つまり、「UAV(無人航空機)」=「ドローン」=「マルチコプター」や「ラジコンヘリ」「ラジコン飛行機」となります。よって、「UAV(ドローン)プロパイロット」は、「マルチコプター」だけでなく、「ラジコンのヘリや飛行機」も飛ばせる人のことを言います。それらが飛ばせないなら「ドローンのプロ」は名乗れないわけです。私は「UAV(ドローン)プロパイロット」を名乗るくらいなので、マルチコプターもラジコンヘリもラジコン飛行機も飛ばしています。

ドローンプロパイロットの仕事

2000年の始め頃、私は、大手のラジコンメーカーから依頼を受けて、ドローンスクールを開きました。もしかしたら、それが日本で初めてのドローンスクールだったかもしれません。実際、当時は体系的に操縦を学べるところがどこにもありませんでした。そのため、操縦のノウハウを、生徒や仲間たちと試行錯誤しながら作り上げてきました。何十、何百と機体を落とし、何度も失敗を繰り返してきました。そうして形にしてきました。ところが、今では700校以上ものドローンスクールがあるみたいで、私たちの汗と涙の結晶の一部が、簡単にお金で買えるわけです(苦笑)。もちろん、核心を教えられるスクールはほとんどないようですが……。

さて、私がやっているドローン操縦の仕事は、主に測量や点検、調査、空撮、映像撮影です。その中でも、難しい操縦をしなければならない仕事がほとんどです。例えば、日本キャタピラーという大手の重機会社で、ショベルカーのCM撮影をしたときのことです。そのときは、ショベルカーが土砂を削って大型ダンプに積み込んでいる隙間を機体ですり抜けたり、重機ギリギリをホバリングさせたりしながら、迫力ある映像を撮りました。至近距離での撮影なので、重機にぶつからないようにします。ぶつかったりしたら大変です。50~60万円ほどする機体ですし、何よりクライアントに迷惑をかけてしまいます。また、橋の点検も難易度が高いです。橋の数cmのところまで機体を近づけます。もし機体をぶつけてしまえば、そのまま落ちて水に沈みます。他にも、自然災害の現場の調査では、風速5m以上の中を完全手動で飛ばします。ダムの点検や複雑な地形の測量をするときもそうです。どれも、私が担当させていただくのはGPSが入りにくい現場ばかりです。もっと楽な仕事の依頼が来ないかなと、いつも思っています(笑)。

実はプロもドローンを墜落させている

「ドローンプロパイロット」を名乗っている人でも、現場ではけっこう機体を墜落させています。以前、私のスクールでは、会員さん向けに、国土交通省が公開しているドローンの事故事例を元に、事故や墜落を予防するための勉強会を開いたことがあります。そこで分かったのは、国土交通省に報告されている事故だけで、年間100件近くあるということです。報告されていないものも含めれば、その何倍にもなるはずです。事故を起こしているのは、国土交通省の飛行許可を得ているプロがほとんどでした。また、私は「プロ」と名乗るさまざまなパイロットさんとも仕事をしてきましたが、墜落を何度も目撃しました。彼らは、現場では「大丈夫です! まかせてください!!」というのですが……。

これは、売上世界一のエナジードリンクを販売する、ある企業のCM撮影に携わったときの話です。このときは、まず企業側がドローンのプロパイロットを用意していました。しかし、そのプロパイロットさんは撮影が始まって10分も経たないうちに、機体を撮影対象物にぶつけてしまったのです。さらに、なんと機体を燃やしてしまいました。そこで、その企業と私の間に立つ人から、このような電話がかかってきました。
「一徳さん、すぐに機体を持って、こちらに来てくれませんか!?」
「どうしたんですか?」
「いや、企業の用意したパイロットが機体を墜落させてしまって……。撮影がストップしているんです!」
そのプロパイロットさんは、ぶつけてはいけないところに機体をぶつけてしまいました。そして、新しい機体を買いに行く時間もありませんでした。そこで、たまたま近くに住んでいた私に連絡が来ました。頼られると弱いこともあり、急だなと思いながらも現場に向かいました。現場につくと、時間がないため打ち合わせらしいことはほとんどせず、カットだけ聞いて、ルートを考え、すぐに飛ばしました。撮影はうまくいきました。飛ばし終えると、周りの人たちが「なんでそんな飛ばし方ができるんですか!?」と驚いていました。しかし、ぶっつけ本番だったため、内心はドキドキでした。こんな感じで、現場はいつもドタバタです。ちなみに、そのときの映像は無事に世界配信されました。

実は、あまり報道されていないだけで、プロ・アマ問わず、多くの人がドローンを落としています。こんな話があります。以前うちのお店に、7台の機体を所有し、そのうち5台を行方不明にしたお客さんがやってきました。
「いや~、遠くまで飛ばしていたら帰ってこなくなっちゃって。でも、一徳さんのもとでしっかり学びたいのでよろしくお願いします」。そう言われました。しかし、さすがに5台もの機体を落としてしまうのでは、私の教えられるレベルではないため、丁重にお断りさせていただきました。

あまりにも墜落させる人が多いので、よく私はお客さんに、冗談半分でこんなことを言います。「もし機体が欲しかったら、森とか山に行ってみてください。ドローンがごろごろ落ちてますから」。すると、「そんなわけないでしょう」と笑われます。ところが先日も、ある森林関係の仕事をしている人から、「一徳さんホントでした! 森でファントム拾いました」と聞きました。「そうでしょう。秩父の森や山ですら落ちているんですから、有名な山に行ったらもっと落ちていますよ」と、そんな話をしました。それくらい、みなさん機体を落としてしまうんですよ。

ドローンのプロパイロットなら、墜落や事故には細心の注意を払わなければなりません。以前、あるイベント会場で、ドローンを子供たちの上に落とし、怪我人を出してしまった事故がありました。ニュースを見て、私も気になって調べたところ、実はこれ、飛ばす前から落ちることが予測できるものでした。つまり、パイロットの知識不足が招いた事故だったのです。もちろん防げない事故や墜落はありますが、防げるものは防ぐのがプロです。まだ私は、幸い仕事で墜落させたことはありませんが、明日は我が身です。いつでも気を引き締めて飛ばさなければなりません。

ドローンの操縦を簡単に考えてはいけない

どうも「ドローンは簡単に飛ばせる」と誤解している人が多い印象です。例えば、あるときお店で、私がマイクロドローンを飛ばしていると、お客さんが近くに来てこう言いました。
「それ、僕も飛ばしていいですか?」
「いいけど難しいですよ?」と私。
「大丈夫です。僕、○○のドローンスクールを出て、資格を持っていますから!」
「そうですか……」と言って、私はその人に機体を貸しました。しかし、すぐに「バーン!」と壁にぶつけ、墜落させてしまいました。
「あれ、このドローンおかしいですね?」
「いやいや、おかしくありませんよ」
「おかしいですよ。空中で停まりませんでした」
「いやいや、この機体は何もセンサーが付いていないので、停まらなくて当然です。自分の指先でコントロールして停めるのです。それができなければ、資格を持っていても意味がありません」
そんなやり取りがありました。

ドローンの操縦は簡単ではありません。例えば、私は国が管轄する独立行政法人「水資源機構」の契約パイロットとして、ダムの撮影や点検などを担当していますが、よく「ダムは広いから、撮影は簡単でしょう?」と言われます。これはとんでもないことです。気象や地形、構造などの幅広い知識と、機体を安全に飛ばし、無事に帰ってこさせる技術がないとダムでの飛行はできません。簡単に考えていると事故を起こします。以前私は、あるラジコン飛行機のプロモーションビデオ撮影で、30~40キロで飛ぶラジコン飛行機を、マルチコプターで後ろから追いかけて撮りました。こういう仕事では、かなりのスピードを出します。もしドローンの操縦を簡単に考えていると大事故を招きます。

私自身、現場ではしょっちゅう機体が落ちそうになる恐怖を感じています。だからこそ、ドローンを飛ばしたいと考えている人に対して何度も何度も「落とす怖さ」を伝えます。これは私が商売下手なのかもしれませんが、「簡単じゃないです。プロになるには何年もかかります。安全な飛行の習得は難しいですよ」とはっきり言います。例えば、私のドローンスクールでは初級・中級・上級と段階が設けてあり、上級を卒業するまでには平均して1年かかります。まったく0からプロとして仕事を請け負えるまでには、それだけかかります。ある意味、職業訓練ですから、2~3日練習しただけで安全な飛行ができるなんてことはありません。だから、途中で諦める人もいます。

これだけ厳しくいう理由は、「安全にかつ、頼まれた仕事を確実に遂行できなければ、それはプロじゃない」と考えているからです。プロとしてお金を稼ぎ、生活するには、それくらいの覚悟が必要です。これはドローンに限らず、どこの業界でも同じではないでしょうか。プロフェッショナルとはそういうものです。

プロが大切にする4つのこと

ドローンのプロパイロットとして、私が大切にしていることが4つあります。「法律を守った飛行ができ、簡単に機体を落とさない」「気象条件や環境、機体に関する深い知識がある」「クライアントの要望に広く応えられる技術がある」「現場の経験を大切にする」。この4つです。

1. プロは、法律を守った飛行ができ、簡単に機体を落とさない

ドローンは、自動車と同じく、法律を守りながら操作するものです。2021年現在、ドローンを飛ばすために必要な資格や免許はありません。免許制になるのは2022年からです。今は、免許や資格がなくても飛ばせます。ただ、国土交通省の許可を得ていないと飛ばせない場所はあります。そのような場所で飛ばしたいときは、「国土交通省の飛行許可」が必要です。飛行許可なしで飛ばすと、それは違反です。

また、飛行許可があるだけでもダメです。例えば、機体が墜落して事故を起こしてしまったとします。すると保険屋さんが来て、「あなたは国土交通省の飛行許可を得ていますが、本当にその定められたとおりに飛ばせますか?」と聞いてきます。そのとき、きちんと飛ばせることを証明できなかったら、虚偽の申請をしたことになり、最悪、捕まってしまいます。法律を守るだけではなく、法律を守れる飛行技術も必要なのです。

さらに、簡単に機体を墜落させないことも大切です。現場では、風が吹いたり雨が降ったり、気温や湿度が上下したり、太陽フレアの影響を受けたりと、常に状況が変わります。いつもと同じ感覚で飛ばしていると、急にコントロールが効かなくなり、墜落させてしまいます。また、現場では、機体と背景が同化して見えなくなることもよくあります。同化を防ぐために目立つテープを機体に貼りますが、それでも環境によってはまったく見えなくなることがあります。こうした中で安全に飛ばすには、日頃から現場に近い状況での飛行練習が欠かせません。実践的な練習をしているからこそ、プロは簡単に落とさないのです。

2. プロは、気象条件や環境、機体に関する深い知識がある

ドローンのプロパイロットは、幅広い知識があります。気象や電波、建造物、カメラ、模型やラジコンなどの知識があると、撮れる映像の質が全然違います。また、事故や墜落の予防にもつながります。

例えば、ダムでの撮影では、上昇気流の発生しやすいポイントを知っているか知っていないかは非常に重要です。ダムでは、風速7~8mくらいの風が吹くときがあります。もしそれを知らずに飛ばしたら、あっという間に機体はコントロール不能になり、水の中に沈みます。こうした難しい状況下で、よく私は自分の生徒に練習させています。なぜなら、現場で使える生きた知識を習得してもらいたいからです。ただ、そうしたトレーニングを続けたある生徒は、その後、無風の中で飛ばすときに「なんだか物足りませんね。面白くありません」なんて生意気を言いますが(笑)。

幅広い知識は大切ですが、間違った知識も氾濫しているので注意です。あるとき、うちのお店で数名のお客さんたちと「Mavic Mini」を飛ばし、手の上に着陸させる練習をしていました。私は、「手の上で停めたら、ローターが止まるまでそのままでいてください」と指導しました。すると、それを聞いていたあるお客さんは、「機体を90度に傾ければ、すぐに止まりますよ!」と言いました。いやいやそんな止め方は最悪です。それは止まりますよ。機体が異常な確度を検出し、緊急停止させるからです。しかし、ジンバルやモーター、その他さまざまな回路に大きな負担がかかります。普段は絶対にやってはいけない止め方です。プロは機体で飯を食っています。機体は大事にしなければなりません。私はみんなに、「絶対にそんな止め方はしないでくれ!」と強く言いました。もしかしたらそのお客さんは、インターネットなどで聞きかじった知識をひけらかしたのかもしれません。ドローンの世界は、このような間違った知識が多いです。注意しなければなりません。

3. プロは、クライアントの要望に広く応えられる技術がある

れからのドローンプロパイロットに求められるのは、より繊細かつ大胆な操縦です。今、ドローンの自動運転はどんどん精度がよくなっています。簡単な撮影の仕事なら、ピッとボタンを押したら自動的に終わります。そのため、プロの存在理由は、企業の自社スタッフでもできない難しい仕事をいかに安全にこなせるかにあります。

繊細かつ大胆な操縦とは、狭い空間でも広い空間でもまんべんなく飛行し、撮影ができることです。例えば、以前ある大きな病院の記念式典用の動画を撮ったときのことです。まずはオープニングとして、上空150mまで機体を上げ、病院を含めた広い景色を撮りました。天気のよい日でとても美しい景色です。ただ、こういう日に限って、上空は風が強かったりします。この日も風速5~6mは吹いていました。こうした状況でキレイな絵を撮るには、広い空間を大胆に飛ばしながらも機体をカクンと揺らさない、そんな技術が入ります。次に、病院の入り口まで機体を降下させ、中へ入っていきます。院内は狭いので、飛行ルートは1cmの狂いも許されません。少しでもルートがずれると壁にぶつかり、クライアントにも迷惑をかけてしまいます。ぶつけないためには、狭いところをブレなく飛ばせる繊細な技術が必要です。

狭い空間も広い空間も卒なく飛ばせると、仕事の幅がグッと広がり、稼げます。クライアントの期待に広く応えられるので、何度も繰り返し仕事を依頼してもらえるからです。また、「こんな映像が撮れるのですね!」と喜んでもらえるので、非常にやりがいを感じられます。これがUAV(ドローン)プロパイロットの仕事の楽しいところです。

4. プロは、現場の経験を大切にする

ドローンの世界は、一定の知識や技術を身につけたら、あとは現場で経験を積んでいくしかありません。どういう条件でどれだけ飛ばしたか。そうした経験が問われます。経験を積んでいけば、現場で不測の事態が起きても、落ち着いて対処ができます。過去の経験の積み重ねが、今の自信になります。

この間、そのことを私自身、再確認することになりました。ある公共機関から、1000mの山に林道を作るということで、その下調査の撮影を依頼されたときのことです。まず建設中の林道を車で走り、頂上まで行きました。それから現場に到着後、私は機体を離発着させられる場所を探しました。しかし、平らなところがありません。そこで車の屋根に機体を置き、そこから離陸させることにしました。次に、機体を飛ばすルートを考えます。検討した結果、私は、車と撮影ポイントの間に立つことにしました。ところが、そこは断崖絶壁です。足場の前後には1mくらいしか余裕がありません。実は私、高いところがダメでして……(笑)。高所恐怖症だけは、訓練でもどうしようもないんです。しかし、仕事なのでそんなことは言っていられません。そのときは、気合いを入れて、なんとか仕事をやり遂げました。実は、このとき一番大変だったのは、「高いところが苦手な自分とどう向き合うか」でした。苦手な状況でも仕事をこなせたのは、長年積み重ねてきた経験が自信になっていたからです。

よく聞かれることに、「ドローンはセンスが必要ですか?」というものがありますが、私は「練習すれば大丈夫ですよ」と答えています。最初からセンスがあるかどうかは誰にも分かりません。もしセンスがなくても、猛練習をすれば開花することがあります。だからこそ、最初から無理だと思わずに、「まずはやってみましょう」と言います。センスよりも、日々の練習と現場での経験が重要です。毎日飛ばしている私でも、いまだに現場へ行くと足が震えることがあります。こうした恐怖を克服するために、毎日練習していると言ってもいいでしょう。センスよりも、どんな状況で練習をするか、どんな現場を経験するかを気にするのがプロパイロットです。

今後、ドローンの仕事は「FPV」が主流に

これからドローンの仕事の現場では、FPVが主流になっていくはずです。FPV機は、特に調査や点検、災害時の捜索などに大きな可能性を秘めています。ただし、危険なものなので簡単に考えてはいけません。

2021年の3月に、中国メーカーのDJIから「DJI FPV」が販売されたことで、FPV操縦を、誰もが気軽に始められるようになりました。これまでFPVというと、映像にノイズが多い、無線の免許が必要、GPSや気圧センサーが入らず操縦が難しいなどの問題がありました。しかし、「DJI FPV」は映像が鮮明で、GPSやビジョンポジショニングなど、安定した飛行を可能にするシステムが優秀です。電波の遅延もなく操作性はタイト。2.4GHzの電波帯なので、無線の免許も必要ありません。もちろん「DJI FPV」は自動航行ができず、FPVによるマニュアル(手動)での操縦になるため、かなりの技術が必要です。しかし、FPVの世界の敷居を、非常に低いものにしたと言えます。

今回の「DJI FPV」の登場により、今後FPV機は、ドローンレースのような趣味分野だけでなく、幅広い仕事分野で、今以上に活用されるはずです。例えば、目視だけでは飛ばせない狭い空間や地形の高低差の激しい現場、いち早く駆けつけなければならない災害地などです。そうした現場では、特に活用されるでしょう。

実際、私が過去にやってきた仕事の中にも、そのとき「DJI FPV」のようなFPV機があれば、大変楽に業務を進められたものがあります。例えば、林道を作るための山の調査をしたときのことです。このときは、大型の機体にカメラを積んで飛ばしました。目視飛行だったので、山の頂上から下に機体を飛ばすと、見る角度によっては機体がまったく確認できなくなります。自分の立ち位置が限られているため、動き回って機体を見ることもできません。非常に難易度の高い飛行が求められました。また、私はよくがけ崩れの調査も依頼されますが、そういう場所はGPSが切れやすいなどの問題が起こります。もしこれらの現場で性能のよいFPV機が使えたら、どれだけスムーズに仕事ができることでしょうか。ゴーグル越しで映像が見られるため、見通しの悪い高台からでも、どんどん機体を降下させられます。さらに、GPSが切れてもビジョンポジショニングがしっかり働くので安心です。それでいて、機体の大きさは1/4、飛行時間は1.5倍になります。非常に効率的に仕事ができます。

今後、私がFPV機を使ってより注力していきたい分野は、調査や点検、災害時の捜索です。「DJI FPV」は機体の下にLEDライトが付いており、暗い中でもビジョンポジショニングがよく効くと聞きました。そうなると、トンネルや洞窟、廃墟などの点検や調査にピッタリです。人が入れない、入ると危険、そんな場所では特に重宝しそうです。また、時速140kmのスピードで飛ばせるので、いち早く駆けつけなければならない災害現場にも最適です。

もちろん、苦手なこともあります。「DJI FPV」は広角カメラなので、例えば測量のデータ取りには使えません。しかしこれも、最初の下調べくらいなら、測量機を飛ばすよりも、まずはFPV機を飛ばしたほうが効率的です。他の機体と合わせて使うなど、工夫すれば幅広い分野で活用できるはずです。

「FPV機」によって助けられる命がある

こうした性能のよいFPV機が普及すれば、助けられる命ももっと増えるはずです。例えば、災害現場でドローンを飛ばす際、パイロットさんの腕が未熟だと空高くからの撮影しかできないことがあります。それでは遭難者の発見が遅れ、命に関わります。実際、ある消防関係者が嘆いていましたが、プロパイロットが災害現場でドローンを飛ばしたにも関わらず、「こんな映像なら自分たちが飛ばしても撮れるよ!」と叫びたくなったことがあるそうです。本物のプロなら、もっともっと接近して撮影できます。しかし、それには技術が必要です。その不足した技術を、今のFPV機なら、ある程度ですが補えます。今後は、もっと災害の現場でドローンが飛び、人命救助に貢献するはずです。

ですが、残念ながら日本政府は、中国製の機体を使わない方針です。先日、日本政府は、情報漏えいの懸念から、中国製の機体を一切使わないことを発表しました。それはアメリカの方針でもあるので、日本が追随したのかもしれません。

しかし、それでよいのでしょうか。同じ性能の機体を日本で開発しようと思ったら、関係者が言うには、少なくとも70~80万円はかかるそうです。「DJI FPV」は、約15万円で買えます。そもそも、同じ性能の機体を開発する技術力が日本にはありません。このままでは日本は、ドローンの技術がどんどん遅れてしまいます。

そうなると、助かる命が助かりません。私のもとには、省庁や国の管轄機関、警察や消防関係の方々からよく問合せがありますが、そのときに厳しく言うことがあります。
「国のせいで助かる命も助からない。どうするんだ」と。
もちろん現場レベルでは、それぞれ立場があって口に出せないだけで、実際は「代わりの機体がないのでどうすればいいんだろう」と困惑している職員がほとんどです。この辺は、日本が抱える大きな課題だと言えます。しかし、人の命は、何より優先されるべきです。そのためには、中国製の機体を使うのはやむを得ないと思いますが、いかがでしょうか。今の日本には、そこまで性能のよい機体がないのですから。

ドローンを兵器にしないための厳しい取り締まりが必要

問題はまだあって、今後、ますますドローンを兵器や武器として使われないようにしなければなりません。「DJI FPV」は時速140kmのスピードが出ます。人や物にぶつけたら、対象物は木っ端微塵になるでしょう。「DJI FPV」のCMでは、レース中の車を後ろから機体で追いかけ、撮影していました。それくらいのスピードなら誰でも簡単に出せます。これは非常に危険です。もし爆弾でも積んで建物に突っ込ませたら、完全な兵器です。もちろん、これはFPV機だけじゃなく、ドローン全般に言えることです。

今後ドローンは、より厳しい管理の元で販売しなければなりません。例えば、日本政府は販売店をきちんと把握し、販売店は購入者に身分証の提示を義務づけるなどです。まるでアメリカの銃砲店のようですが、それくらい厳しくないとダメでしょう。できれば、昔のラジコン屋の親父みたいに、きちんと操縦を習ってからじゃないと売らないような店が増えればいいのですが……。今の時代、それは難しいかもしれませんね。ちょうど2022年に、ドローンは免許制が導入されます。しかし、それで危険な行為が0になるとは考えられません。まだまだ課題が山積みです。これは、私たちドローンパイロットも真剣に考えていかなければならないことです。

「仕事で安全に飛ばせる」ドローンプロパイロットを育成中

ほんの少しではありますが、ドローンの仕事の現場をご紹介しました。いかがでしたでしょうか。今日本では、楽天やソフトバンクなどの大手企業が、急ピッチでドローンのインフラを整えています。そのため、これからますますドローンを安全に飛ばせて、現場でバリバリ活躍できる人材が求められてきます。そこで私も、15年以上ドローンに携わっていますが、これまで以上にプロパイロットの育成に力を入れているところです。もしこうした活動にご興味がありましたら、私のホームページ『ドローンプロパイロット養成所』(https://freakscafe.com/drone)をご覧になってみてください。もちろん簡単な道のりではありませんが、「本気でプロを目指したい人」のための情報を惜しみなくご提供しています。いつかどこかで、あなたと一緒にUAVを飛ばせることを楽しみにしています。それではまた!